呼気ガス評価が睡眠時無呼吸症候群の早期発見、早期治療へ繋がった一例

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抄録

<p>【はじめに】</p><p>一般的に睡眠時無呼吸症候群(SAS)、チェーンストークス呼吸(CSR)、運動時周期性呼吸変動(EOV)などの呼吸障害はいずれも予後不良因子として知られている。今回、心臓血管外科術後、種々の呼吸障害とそれに伴う意識レベルの低下により理学療法進行に難渋した患者への呼気ガス評価を実施することで、呼吸障害に対する早期の治療開始が可能となりADL拡大、退院へと繋がった一例を経験したためここに報告する。</p><p>【症例提示・経過】</p><p>60歳代男性。入院前ADL自立。BMI29.7。既往に高血圧、糖尿病、高脂血症、心房細動あり。今回、左心房粘液腫、狭心症、慢性心房細動の診断で粘液腫摘出術、冠動脈バイパス術(RITA-LAD、Ao‐SVG‐Cx)、Maze施行。術中、血栓閉塞による急性心筋梗塞を発症。大動脈内バルーンパンピング、経皮的心肺補助、人工呼吸器管理下で緊急経皮的冠動脈形成術を施行しICU管理となった。術後CTにて右中大脳動脈、右後大脳動脈に梗塞所見あり。術後6日目に補助循環装置を離脱し、術後7日目にリハビリ開始となった。バイタルサインに応じ離床を開始したが、術後20日目頃より、安静時の頻呼吸と無呼吸(低呼吸)を繰り返すCSRを認めた。また、端座位での下肢の自動運動や立位保持にて周期性呼吸の頻度の増加とそれに伴う意識レベルの低下を認めた(JCSⅠ‐1→Ⅱ‐10)。その為、運動強度が設定し難い状況であったことから、術後27日目にミナト医科学社製呼気ガス分析装置(エアロモニタAE-310S)で安静時、立位時の呼気ガス評価を実施した。結果、安静時よりVE,VCO2,VO2及びガス交換比(R)の周期性変動あり。立位にてRの1.1以上の上昇を認め、運動負荷をかけることは困難と判断された。日中の傾眠やSPO2の大幅な変動も認めたことから医師へ報告し、終夜睡眠ポリグラフ検査で無呼吸低呼吸指数31とSASの診断あり。術後29日目より非侵襲的陽圧換気(NPPV:CPAPモード)導入となった。NPPV導入後は、SAS及びCSR、EOV共に軽減し日中の傾眠も改善された。NPPV 導入後の心肺運動負荷試験(CPX)でVE、VO2、VCO2、Rの周期性変動は認めるものの安静時のガス交換比(R)は正常範囲となり有酸素運動が開始可能と判断された。その後、CPX結果に基づき術後38日目より自転車エルゴメーターでの有酸素運動や基本動作訓練を実施し、屋内歩行は自立レベルまで改善した。在宅でのNPPVを導入し、術後50日目に自宅退院となった。</p><p>【考察】</p><p>臨床所見からCSR、EOVが疑われ、呼気ガス評価を早期に実施したことで、SASの発見・早期治療が可能となり日中のCSR、EOV改善に繋がった一例であった。また、本症例は後に妻から術前より睡眠時の呼吸停止やいびきがあったことを知らされた。理学療法介入時に家族へSASが示唆されるような所見の有無を聴取することの必要性を再認識した。本症例は症状が顕著であった為、呼気ガス評価の実施に至ったが、心不全患者や脳血管疾患患者等の呼吸障害を呈するリスクのある患者、またCPXが困難または禁忌となる患者への安静時の呼気ガス評価は、呼吸障害判定の一要素となり得るのではないかと考える。呼気ガス評価が、適切な理学療法を行う上での有用性を見出せた一例であった。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本症例報告を行うにあたり、対象者に十分な説明を行い、口頭・書面にて同意を得た。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680602541824
  • NII論文ID
    130005175323
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2016.0_194
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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