大型類人猿の上顎犬歯形態(尖頭観と舌側面観)

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タイトル別名
  • Incisal and lingual aspects of maxillary canine tooth in nonhuman great apes

抄録

 目的:犬歯の形態にあまり変異性がないとの予断により、犬歯の機能に較べ形態に関する研究はほとんど行われていない。今回はPongo pygmaeus, Gorilla gorilla, Pan troglodytes, Pan paniscusの上顎犬歯について尖頭側と舌側からみた形態を調査した。調査は犬歯の石膏模型を尖頭側および舌側から写真撮影を行い、スケッチして比較した。結果:尖頭方向からみると、オランウータンとニシローランドゴリラではオスでくるみ状、メスでは頬舌的に圧平された形をしていた。チンパンジーとボノボはオスでアーモンド状、メスでは小豆状をしていた。4種ともオスでは近心頬側が強く張り出し、メスは全体的に丸みを帯びていた。ハート状の窩は近心切縁縦溝の発達が弱いため表さなかった。舌側方向からみると、オスでは近遠心のshoulderは歯頚近くに位置するため、犬歯の概形は2等辺三角形を呈していた。近心切縁縦溝は発達が中程度か軽度で、4種ともこの溝は歯頚隆線によって遮断されている。オランウータンとニシローランドゴリラでは舌側面全体に皺(細かな隆線と溝)があるが、チンパンジーとボノボは2~3本の隆線が縦走していた。メスは4種とも尖頭が低いため概形は正三角形に近い。歯頚隆線の発達はオスよりも良い。近心切縁縦溝の発達は微弱で、オスと同様に歯頚隆線で遮断されている。オランウータンとニシローランドゴリラでは発達の弱い太い隆線が走行する。チンパンジーとボノボではオスと同じように明白な2~3本の隆線が尖頭から歯頚付近へ走行する。4種とも目立った舌側結節の発達はみられない。歯頚線も根尖側にやや凸湾する程度である。大型類人猿で犬歯の形態は、特にメス間で、よく似ていて、とりわけオランウータンとニシローランドゴリラ、チンパンジー2種がそれぞれ似ている。考察:単雄群のオランウータンとニシローランドゴリラはオスの犬歯に皺が多いことで共通し、複雄群のチンパンジーとボノボはともに舌側面に隆線や溝が目立つ。ともに果実食性である。4種ともメスではオスよりも歯頚隆線の発達が良い。舌側結節は発達が不良である。A.アファレンシスなどの化石人骨では舌側形態に皺がみられず、隆線や溝が明白で、舌側結節も良く発達し、歯頚線も根尖側に強く凸湾している。概形も不正五角形をし、近遠心のshoulderも歯冠1/2から2/3の位置にある。現代人の犬歯はオランウータンやニシローランドゴリラよりもチンパンジーやボノボに似た形態をしているが、それでもかなり違いがある。むしろ化石人骨に類似していた。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680611443200
  • NII論文ID
    130006997143
  • DOI
    10.14907/primate.27.0.50.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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