ぶら下がりの霊長類

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抄録

哺乳動物では樹上環境下でぶら下がり動作を示すものが幾つか知られる。ナマケモノ,コウモリの様に前後肢を用いる動物,またオポッサムやキンカジュウの様に尻尾を利用するものなどがよく知られるが,これらは枝なる媒体に対して基本的に静的に体幹を維持する動作であって霊長類の様にぶら下がりつつの移動運動性を強く示すものは見られない。特に真猿類以上の霊長類では前肢のみを用いた特異なロコモーションであるブラキエーション(腕渡り)が明確に観察される。これはオナガザル科の一部のリーフイーター並びに新世界ザルのクモザルの仲間では比較的短時間の動作として行われるが,類人猿,特に小型類人猿のテナガザルでは巧緻性を極限にまで高めた発達を示す。残念ながら,霊長類に特徴的に観察されるブラキエーションに関しては,これが霊長類の運動特性を解明する為の1つの大きな鍵となる可能性があるにも拘わらず,如何にしてまた何故に獲得されたのかの考察が従来甚だ乏しかった。単純に考えれば,一般哺乳類では四肢は体幹の重さを支える「台座」として機能するのに対して,ぶら下がり運動では四肢は体幹が枝から落下するのをつなぎ止めて空間位置を維持する「鎖」として機能する。即ち抗重力作用が正反対であるが,関節機構を含めた筋骨格系にどの様な適応的改変が生じているのか否か,実証も理論的検討もまだ不十分である。本自由集会では,ぶら下がり運動の運動特性を比較動物学的にまた広く進化の視点も含め概観し,樹上環境に於けるその適応的意義を探ると同時に,生体力学,機能形態学並びにヒトの運動性との関連について考察を加え,今後の課題について討論を行う。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680611494400
  • NII論文ID
    130006997229
  • DOI
    10.14907/primate.27.0.2.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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