ベニガオザルの傷痕ー犬歯の欠損・消失などー
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- 丸橋 珠樹
- 武蔵大学人文学部
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- Nilpaung Warayut
- hao Krapuk-Khao Tao Mo non-hunting area
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- Malaivijitnond Suchinda
- Chulalongkorn University
抄録
激しい身体的攻撃的交渉は、傷痕として残存する。耳、指、口周辺などに残る傷痕の出現頻度や傷の程度は、直接観察が困難な、激しい攻撃交渉のパターンを反映していると考えられる。本発表では、ベニガオザル雄に見られる、顔面の大傷痕、身体の中で最も硬い組織であり雄間競争の象徴である犬歯損傷や消失について報告する。また、傷痕の出現パターンや頻度にみられる性差にも言及する。タイのマレー半島基部に生息する調査対象個体群は4群で構成され、総個体数は2015年2月現在で約360頭である。2014年4月から2015年3月まで、6回、151日間、総追跡時間759時間の調査を実施した。おとな雄個体のあくび写真を撮影し、犬歯や前歯の状態を判定し、雄や雌の個体識別写真から、傷の位置と形状、程度を調査した。雄個体間交渉の特徴の一つは、唇、首筋、腕、睾丸への甘噛み(mock-bite)である。なかでも雄間の唇噛みは、顔面の大きな傷の原因となっているに違いない。犬歯・前歯では、一部が欠けている「欠損」と歯茎から歯が見えない「消失」とが確認された。大人雄個体の約6割、60数頭のあくび写真を撮影することができた。上顎下顎の4本の犬歯のうち、1本以上に欠損や消失がある雄個体は少なくとも13頭、前歯上下8本のうち少なくとも1本以上に欠損や消失がある雄個体は11頭であった。欠損や消失がもっとも多数確認された個体では、犬歯4本がすべて欠損、前歯8本のうち5本が欠損、2本が消失、1本だけ残存していた。こうした犬歯や前歯の状態は、激しい雄間攻撃交渉の結果であろう。雌ではこうした犬歯・前歯の欠損や消失は確認することができなかった。最後に、詳細は不明だが、死亡と推定された赤ん坊の大怪我についても報告する。また、まるでラグビーのモールのような、雌への攻撃交渉の映像も報告する。
収録刊行物
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- 霊長類研究 Supplement
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霊長類研究 Supplement 31 (0), 70-70, 2015
日本霊長類学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680611546880
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- NII論文ID
- 130005485691
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可