中部山岳地域におけるニホンジカの春と秋の季節移動

Description

ニホンジカは,夏季や冬季の季節行動圏間を往復する季節移動を行う大型草食獣である.中~高緯度地方のシカ類では主に積雪によって夏季行動圏の利用が制限されるために移動するという報告が多い.また,山岳地域では冬季により低い標高へ季節移動する,標高移動を示すことも知られている.シカ類がこのように春に標高の高い夏季行動圏へ回帰する理由の一つには,良質の食物資源を得ることがあげられ,その場合春の季節移動は秋よりもゆっくりと行われるという報告がある.さらに,シカ類は経年的に同じ季節移動経路や季節行動圏を繰り返し利用し,近年の GPS首輪を用いた研究からは季節移動経路の途中の休息場所が採食場所として重要な意味をもつことが明らかにされている.しかし,ニホンジカについて季節移動途中の休息場所や移動にかかる速度などに関する知見はほとんどない.そこで,本研究では,GPS首輪による個体追跡によってニホンジカの春と秋の季節移動にかかる時間,休息場,移動速度を明らかにした.<br> 中部山岳地域は,本州で最も標高差の大きい地域であり,地形も複雑である.本研究では 2007~2011年にかけて南アルプス北部,奥秩父山地西部,霧ヶ峰高原において GPS首輪を装着した個体について分析した.冬季行動圏から夏季行動圏への移動を春の季節移動,夏季行動圏から冬季行動圏への移動を秋の季節移動とした.各季節移動の途中で,4時間以上決まった一方向への連続した移動を行わなかった場所を休息場所とした.南アルプス北部では,春の季節移動は秋よりも移動時間が長く,休息場所の数も多かった(n=6).4頭は季節移動の途中に春季行動圏(滞在期間 27日以上)を形成した.このことは,春の季節移動が良質の食物資源を得るために植物のフェノロジーと関連している可能性を示すと考えられた.本大会では,奥秩父山地や霧ヶ峰高原における春と秋の季節移動についても報告する.

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680611799552
  • NII Article ID
    130005471598
  • DOI
    10.14907/primate.29.0_208_2
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

Report a problem

Back to top