飼育下チンパンジーの授乳期における性皮腫脹

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Genital swelling of a captive chimpanzee during the lactation period

抄録

日本モンキーセンターにて飼育している雌チンパンジーのマルコ(#0582)が、2014年7月25日に雄の子マモル(#0746)を出産した。出産当日より授乳が確認され、以後も自然哺育による育児を続けているが、同年10月8日(出産後75日目)より、マルコの性皮腫脹が観察された。10月16日(出産後83日目)には最大腫脹となり同居個体の雄ツトム(#0238)との交尾も確認された。授乳期において今回のように出産後早期の性皮腫脹は珍しいと思われ、少なくとも出産後100日未満での例は確認できなかった。発情回帰が懸念されたが、マルコの乳房の張りや授乳および子の排泄に問題が見られなかったため、自然哺育を続けたまま性皮腫脹の観察を継続的におこなった。性皮腫脹の観察は目視により6段階(スコア0~5、5が最大腫脹)で腫脹の程度を数値化し、同時に写真撮影をおこない毎日記録した。その結果、2015年4月20日までの間に5回の腫脹期間(スコア1以上が連続する期間)がみられた。各回の腫脹期間は22~37日(中央値は27日)で、各回ともスコア5まで達したのちに下降した。また、3~5回目の腫脹期間には腫脹減衰時期(スコア0~1)に陰部からの月経様の出血も確認された。5回目の腫脹期間のピーク時(3月20日~26日の7日間)には排卵の有無を確認するため、黄体形成ホルモンキット(クリアビューEASY LH)を使用し尿よりLHの判定をおこなった。その結果はいずれも陰性であり、排卵は伴わない腫脹が繰り返されていた可能性が示唆された。このような事象はあまり知られていないため、事例報告として紹介する。なお、当該個体には、排卵の再開と妊娠を予防すべく、5回目の腫脹期間の終えた4月8日よりノルエチステロン製剤(製品名ノアルテン)500μg/日の経口投与を開始した。また今後の課題として、12月27日以降採取・保存している尿より性ホルモン濃度動態の分析もおこなうことで、内分泌学的にもこの事象のさらなる理解を深めたい。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680612121216
  • NII論文ID
    130005485636
  • DOI
    10.14907/primate.31.0_102_2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ