隠岐諸島,本州,四国,九州におけるカヤネズミの形態変異

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抄録

 カヤネズミ (<i>Micromys minutus<i>)はとても小さい野ネズミである,日本列島では東北以南の本州,四国,九州,さらにいくつかの小さな島々に分布する.隠岐諸島ではこれまで島後,西ノ島,中ノ島から採集されていたが,その後,知夫里島で 1頭が採集された.カヤネズミの形態の地理的変異についてこれまで研究がほとんどされていない.そこで私たちは隠岐諸島の 4島をはじめ,本州,四国,九州におけるカヤネズミの形態を調べた.分析したのは下顎骨の長さと高さの計測値である.主成分分析では第 1主成分が下顎骨の全体的なサイズを,第2,第 3主成分が形を示した.第 1主成分の因子得点は有意な地域差を示さなかったが,第2,第 3主成分の因子得点には地域差が認められた.第 2主成分では,因子得点の集団の平均とネズミのいた地域の面積との間に有意の弱い相関が認められた.判別分析によると,隠岐諸島の島後,西ノ島,中ノ島の集団の間で分化が認められた.他方では,島後と西ノ島は四国(玉川町),また西ノ島は九州(御船町),との集団間で形態的にほとんど分化していなかった.この他にも,本州(愛知),四国,九州など,地理的に遠く離れた地域の集団の間でも分化が進んでいない例がみられた.Yasuda et al. (2005)はミトコンドリア DNAにもとづいてカヤネズミの地理的変異を調べ,対馬,福江島,口永良部島,本州,九州,四国のネズミは対馬の集団を除き,遺伝的な多様性が低く,韓国の集団に埋もれた単系統であることを示した.本研究で明らかにしたカヤネズミの形態の地理的変異はこうした遺伝的な変異を反映していると思われる.しかしながら,集団の間に有意な形態分化もあり,これを生じた要因について将来明らかにしたい.

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  • CRID
    1390282680612132096
  • NII論文ID
    130005471574
  • DOI
    10.14907/primate.29.0_153_2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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