ヘア・トラップ法を用いた北上高地南部に生息するツキノワグマ地域個体群の生息数推定

説明

 ヘア・トラップによるクマの個体数推定法を広域個体群に応用するため,北上高地の南部にヘア・トラップを設置してツキノワグマの体毛を回収し,遺伝子解析と個体数推定を実施した.調査地を5km × 5kmメッシュに区切り,クマ生息メッシュを任意に 21メッシュ選択した.2012年 5月下旬に各メッシュ 8基のヘア・トラップを設置した.ヘア・トラップは有刺鉄線を 2段張りにし,誘因餌はリンゴとハチミツを用いた.そして 2~ 3週間間隔で 4回の餌の交換と体毛回収を行った.DNA抽出は 1サンプルあたり 30本までの毛根を用いた.マイクロサテライト部位(6座位)を増幅するMultiplex PCRと,アメロゲニン部位を増幅する PCRを行い,フラグメント解析を実施した.対立遺伝子の不一致の検索を行い,2座位の相違までは再分析を実施した.個体数推定には空間明示型標識再捕獲モデル ”Program DENSITY”を用いた.パラメータ g0(行動圏中心の捕獲率 )と sigma(行動圏サイズ )に対して,雌雄差 (sex)やサンプリングセッション(t),trap-happy(bk)の影響を説明変数として組み込み,モデルの選択を行った.遺伝子解析の結果,確認頭数は 203頭であった (メス 86頭,オス 117頭).個体数推定の結果, g0に対して bkと sexが効いたモデルが選択され,生息密度は 0.31頭/km2となった.2009年と 2010年に北奥羽地域と北上高地北部地域を対象にヘア・トラップ調査が実施され,生息密度がそれぞれ 0.36頭 /km2と 0.26頭 /km2であったことから,岩手県全域の生息数は約 3,400頭と推定された.本研究の結果から,様々な地域にヘア・トラップを配置する方法によって,広域スケールでの生息数推定が可能となり,保護管理を遂行する上で最も重要な生息数推定という指標を獲得することが出来た.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680612509696
  • NII論文ID
    130005471790
  • DOI
    10.14907/primate.29.0_93_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ