アシカ科における前肢の遊泳ロコモーション比較

DOI
  • 小林 沙羅
    東京大学大学院農学生命科学研究科 東京大学総合研究博物館
  • 三谷 曜子
    北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
  • 堀本 高矩
    北海道大学大学院水産科学研究院
  • 遠藤 秀紀
    東京大学大学院農学生命科学研究科 東京大学総合研究博物館

抄録

 鰭脚類は食肉目の中で最も水棲適応したグループであり,それに応じて四肢を鰭状の遊泳肢に変化させた.特にアシカ科の前肢は,他の海棲哺乳類に比べて,遊泳時に高い推進性と操縦性を発揮する.一方で,アシカ科には回遊距離や遊泳速度,海上滞在時間などの種による生態の違いがあり,それに応じて遊泳時の前肢の動きが種間で異なることが考えられる.そこで本研究では,生態の異なる 2種のアシカ科動物を用いて,遊泳時における前肢の動きを比較した.<br> 研究材料として,沿岸性で遊泳速度が速いカリフォルニアアシカ Zalophus californianusと外洋性で遊泳速度が遅いキタオットセイCallorhinus ursinusを用いた.まず,アシカ科が遊泳時に行う前肢を振り上げるリカバリーストローク,前肢を振り下ろして推進するパワー・パドルストロークの動きを想定した 6つの前肢の姿勢について CT撮影を行い,前肢骨格の動きを再現した.得られたデータを用いて,三次元座標空間上において取得した上腕骨に対する肩甲骨,橈尺骨の位置情報を単位ベクトルで表し,肩関節・肘関節の動きについて種間比較を行った.<br> キタオットセイでは,リカバリーストローク時では肩の外転・外旋,パワー・パドルストローク時では肩の内転・内旋,及び肘の屈曲・内転・回内を組み合わせた柔軟な動きをしていた.一方,カリフォルニアアシカでは,リカバリーストローク時に肩を水平伸展させ,パワー・パドルストローク時に肩を大きく内転させていたが,一連の動きを通して肩の外旋・内旋の動きは小さかった.外洋上で長時間の低速遊泳と浮遊を行うキタオットセイでは,遊泳のためのエネルギーを低減するために,肩・肘関節をより柔軟にし,操縦性を高めていると考えられる.一方,高速遊泳を行うカリフォルニアアシカでは,より強い推進力を得るため,パワー・パドルストローク時における肩を振り下ろす内転の動きを特化させていると考えられる.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680612665344
  • NII論文ID
    130005471855
  • DOI
    10.14907/primate.29.0_80_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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