クマネズミ類における環境適応に関連する遺伝子の進化的動態

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 生物の環境適応の進化過程を理解する上で,ニオイ受容に関わる嗅覚受容体遺伝子や色素タイプの決定に関わるメラノコーチン受容体遺伝子など,環境応答に直接関わる受容体遺伝子群の進化的動態は注目されている.クマネズミ類 (= Rattus属及びその近縁属 ) はその種数が約 200種と著しく多く,その一員であるドブネズミ Rattus norvegicusは現在全ゲノム配列が解読されているため,遺伝子の進化的動態を詳細に探る上で優れた研究対象であると目されている.本研究では,上述の2種の受容体遺伝子について,その進化的動態の概要を解明することを目的として研究を行った.嗅覚受容体遺伝子は遺伝子重複によって生じた大規模な多重遺伝子族を形成し,その重複数は哺乳類ゲノムの中で最大であることが知られているが,嗅覚受容体遺伝子それぞれの機能や進化に伴う遺伝子の獲得・消失の詳細については未だ不明な点が多い.ハツカネズミ Mus musculusとの分岐後に遺伝子重複によってコピーされたと考えられる特定の遺伝子に着目し系統学的解析を行ったところ, Rattus属の分岐後に重複が起きた可能性が示唆された.さらに,重複直後に複数のアミノ酸の置換が認められ,遺伝子変換の関与の可能性も示唆された.一方,毛色において多様なクマネズミ類において,毛色関連遺伝子 Mc1r (melanocortin 1 receptor) のコード領域全長配列 (954 bp)を約 20種について解読を行った.現在,系統ごとのアミノ酸置換速度の違いについて検討している最中である.本研究を通して,クマネズミ類は多様性科学において極めて有用な研究対象であることを部分的にでも実証できるものと考えている.

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  • CRID
    1390282680612931968
  • NII Article ID
    130005471772
  • DOI
    10.14907/primate.29.0_241_2
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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