チンパンジーとオランウータンの上肢の筋形状について

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タイトル別名
  • Muscle architecture of the upper limb in the chimpanzee and the orangutan

抄録

【目的】チンパンジー(以下チンプと略す)とオランウータン(以下オランと略す)の上肢における移動様式と関連した筋形態をより定量的に議論するために、凍結標本もしくは固定標本の解剖から筋パラメータ(筋重量・筋束長)を計測し比較を行った。<br>【方法】チンプ1個体の左右上肢とオラン3個体の片方の上肢から筋を分離し筋重量を計測した。取り出した筋は筋束を露出させ、その長さを計測した。生理学的断面積PCSAは計算(筋重量÷[筋密度×筋束長])によって求めた。両者の比較は、総筋重量、総PCSAに対する各筋の比率をそれぞれについて求め、解剖学的特徴から機能群に分けて行った。<br>【結果】オランの肘の屈筋群は筋重量比、PCSA比において大きな値を示し、チンプでは上腕骨を後引させる筋群が優位であった。指屈筋群では筋重量比において大きな違いは認められなかったものの、PCSA比ではオランの指屈筋群が小さい値を示す傾向がみられた。これは、筋重量が等しい筋同士であっても筋束の長い筋はPCSAが小さくなることを考慮すると、オランの指屈筋群の筋束が相対的に長いことが示唆された。<br>【考察】樹上性の強いオランは、懸垂運動や垂直木登りを頻繁に行い、三次元に拡がる枝を正確に把握するために四肢の関節の可動域が大きい。肘の屈曲は体をもち上げるのに重要な動作であり、指屈筋群の長い筋束は手首や指の可動性に貢献する。オランの上肢筋の特徴は樹上での移動への特殊化と一致する。上腕骨の後引筋群は、両者にとって垂直木登り時に推進力を産む重要な筋である。しかし、チンプでより発達したことは興味深い。オランの垂直木登りは体幹が左右に振れるのに対し、チンプでは支持基体に平行のままであるという報告があり、同じ運動でも筋の重要性が異なるのかもしれないが、結論に至ることができなかった。より詳細なポジショナル・ビヘイビアの報告を待ちたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680613031424
  • NII論文ID
    130006999000
  • DOI
    10.14907/primate.24.0.28.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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