霊長類の鎖骨の長さのプロポーション:胸郭の幅との比較
書誌事項
- タイトル別名
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- The proportion of clavicle in primates: a comparison with the thoracic cage width
説明
現生ヒト上科では、胸郭が幅広く扁平で、肩甲骨が相対的に背側に位置するため、肩関節が外に向いているとされる。これらの特徴は、類人猿の前肢の運動域が広く、前肢によるぶら下がり運動を行うことなどに深く関わるとして、注目されてきた。しかし、発表者らの先の報告(Kagaya et al. 2008)において、チンパンジーの胸郭の幅は、その体重に比べると、類人猿以外の真猿類と大きくは変わらないことが明らかとなった。一方、テナガザル類では胸郭上部の幅が広く、オランウータンはこれらの中間であった。そのため、胸郭に対する肩関節の位置を規定すると考えられる、相対的な鎖骨の長さについても、チンパンジーと、旧世界ザルや新世界ザルに違いがみられないのかどうか、検討した。真猿類15種70個体の骨格標本を用い、胸椎に関節させた肋骨の画像から、胸郭の幅を計測した。鎖骨の長さは、胸骨端の関節面の中心点から肩峰端の関節面の中心点までの直線距離とした。標本の体重は、Ruff(2003)の回帰式を用いて、脛骨近位端の内外側幅から推定した。その結果、チンパンジーの鎖骨は、体重に比べて、オランウータンやテナガザルよりも顕著に短く、旧世界ザルに近いことが分かった。しかし、胸郭の幅と比較すると、チンパンジーの鎖骨は旧世界ザルよりも長く、テナガザルやオランウータンにみられる傾向と旧世界ザルの中間的であることが明らかとなった。また、この点で、大型新世界ザルはチンパンジーと同様の特徴を示した。このように、鎖骨の長さのプロポーションは、チンパンジーと大型新世界ザル、オランウータンとテナガザルにおいて、互いによく似た傾向を示すといえる。おそらく、木登り、前肢ぶら下がり行動、ナックルウォーキングなどの移動運動における、前肢の体重分担の役割が大きい霊長類ほど、胸郭に対して遠心寄りに肩関節が位置する傾向が強いのではないかと考えられる。
収録刊行物
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- 霊長類研究 Supplement
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霊長類研究 Supplement 24 (0), 29-29, 2008
日本霊長類学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680613032576
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- NII論文ID
- 130006999002
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可