塑性骨格曲線移動則による鋼構造ラーメン骨組の性能判定

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  • PLASTIC SKELETON SHIFTING CRITERIA FOR ACCEPTANCE EVALUATION OF STEEL MOMENT RESISTING FRAMES

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抄録

1.はじめに 著者らは、文献[3]において、鋼構造ラーメン骨組に対する終局地震荷重効果を、崩壊メカニズム数を重要なもののみに低減した降伏多面体モデルを用いた応答解析で評価する手法を提案した。そこでは荷重効果は、大局的な応答変位履歴ないし各崩壊機構形の塑性変形履歴の形で与えられる。本稿では、(1)この荷重効果に対して、鋼構造ラーメン骨組の性能が受容できるかどうかの判定を行う手法を示し、(2)鋼構造ラーメン部材の耐力劣化に関連した性能判定を、統一的に表現する累積損傷クライテリア、について提案する。2.簡略化応答解析による要求部材塑性変形性能 (1)考慮する崩壊機構数を低減した簡略化応答解析[3]の概要 予備解析として弾性地震荷重効果の静的水平荷重モデルとして、古典的規準モードの荷重基底ベクトルにランダムモード乗数を乗じて線形結合した荷重モデルを仮定する。モード乗数は零平均とし、標準偏差は、各次有効質量と設計用加速度応答スペクトル値の積に比例させる。骨組の崩壊機構形の信頼性指標値を評価して小さいものを選択し、また相関の大きな複数の崩壊機構形は統合して、骨組の塑性崩壊に対する安全領域を降伏多面体モデルで近似する。安全領域の内部では弾性と仮定し、塑性変位増分の法線則によって応答解析を行う。(2)要求部材塑性変形性能の評価例 複数の崩壊機構形毎に塑性変形履歴が算定されるが、その塑性変形履歴から、適合式により崩壊機構形に属する塑性ヒンジの塑性回転角履歴を求める。塑性ヒンジが複数の崩壊機構形に属する場合は、それぞれの塑性回転角履歴の単純和を塑性ヒンジの応答履歴とみなす。文献[3]で例題とした6層2スパン骨組に4種の実地震波形を入力した結果、比較的大きな塑性変形を被る塑性ヒンジの累積塑性変形角ならびに最大塑性変形角について、簡略化応答解析結果(縦軸)と、塑性ヒンジ法による部材レベル弾塑性応答解析結果(横軸)とを図7に対照している。簡略化応答解析で概ね安全側に評価できることが分かる。3.スケルトン移動型履歴モデルを利用した受容判定 上記の簡略化応答解析では、一般化された完全弾塑性挙動が仮定されているので、耐力劣化が顕著でない範囲の応答予測結果が得られる。その応答履歴を、耐力劣化現象も含むスケルトン移動型履歴モデルに適用して、耐力劣化が顕著になるかについての受容判定を行う。(1)スケルトン移動型モデルの概要 歪み硬化、局部座屈・横座屈等の不安定現象による耐力劣化など、塑性抵抗力の変化を含む履歴モデルとして、第2著者の提案になるスケルトン移動型履歴モデル[6][7][8]を利用する。図8に履歴則を示しているが、1)正側、負側にスケルトン曲線を仮定し、それぞれに目標点を置く。初期位置としては塑性化開始点に置く。2)載荷点が、一方のスケルトン曲線の塑性部分をたどると同時に、その上の目標点を載荷点と一緒に移動する。また塑性移動量のΨ倍(シフト係数)だけ、逆側のスケルトン曲線を同じ方向に移動する。3)一方のスケルトンから除荷した直後は、弾性除荷とするが、逆側のスケルトン上の目標点に向かう場合は、除荷点と目標点とを結ぶ軟化曲線上をたどる。単調載荷曲線に適合するようにスケルトン曲線を定め、適切なシフト係数を仮定すると、耐力劣化の生じる鉄骨ラーメン部材の履歴曲線や地震応答性状を追跡できる。(図9、図10)スケルトン履歴型モデルを用いて部材レベルの応答解析を行えば、要求性能と性能の受容判定を同時に行えるが(図1)、本稿では要求性能については完全弾塑性モデル、受容判定にのみスケルトン移動型モデルを用いる。(図2) (2)耐力劣化の発生しない繰返し変位振幅 スケルトン移動型履歴モデルでは、塑性抵抗力の変化は、各方向のスケルトン曲線上で経験する塑性変形の総和(スケルトン累積塑性変形)に依存することになるので、耐力劣化に関わる性能判定は、スケルトン累積塑性変形を参照する。また塑性変位一定振幅の繰返し載荷を行った場合、Nサイクル時のスケルトン累積塑性変形は(1)式で与えられ、0<Ψ<1のとき、Nを無限大の極限にすると(1)式は(2)式に収斂する。すなわち、十分小さな振幅で繰り返すと何度繰り返しても、スケルトン累積塑性変形はある値以上に進行しない。すなわちスケルトン移動型履歴則は、耐力劣化の発生しない限界変位振幅が存在することを内包している。宇田川らはH形断面部材について繰返し載荷実験を行い、図13のような限界振幅を観察している[10]。逆に、実験的に耐力劣化の生じない限界振幅ならびに単調載荷時の耐力劣化開始変位が測定されていれば、(3)式によってシフト係数Ψを同定することができる。宇田川らの実験[10][11]から同定したΨの値を表5、図15に示しているが、シフト係数Ψ=0.5から0.8程度の値となる。(3)Manson-Coffin則との対応 低サイクル疲労破壊の場合に用いられる古典的な累積損傷則として、Manson-Coffin則がある。(4)-(6)式、図16において、本稿におけるスケルトン移動型履歴モデルに基づく累積損傷則との比較を行っているが、ある塑性歪振幅、あるサイクル数の範囲内では、シフト係数を例えば0.8程度に設定して塑性歪履歴に適用すれば、式(4)のManson-Coffin則と同等の累積損傷則を表現できるので、この種の低サイクル疲労のシミュレーションにも利用できる。しかしながら、1)Manson-Coffin則の形からは、前項のような破壊の生じない塑性歪振幅は導出することはできないこと、2)本稿で用いているような大局的応答の塑性履歴は、低サイクル疲労亀裂の成長に関連するような局所の塑性歪履歴を反映していないこと、に留意すべきである。(4)その他の簡略化された損傷規範 1)Ψ=0とすると、過去に経験した最大応答変位を超過しない限り、繰返し塑性変形を受けてもスケルトン累積塑性変形が進行しない。すなわち、最大応答変位と単調変形能力の比較による性能判定になる。2)Ψ=1とすると、ある方向の繰り返し塑性変形増分が全てその方向のスケルトン累積塑性変形に算入されることになり、通常の累積塑性変形と単調変形能力の比較による加藤-秋山型の安全側に簡略化した性能判定になる。4.簡略化応答解析による性能評価例 2.の簡略化応答解析例で算定された塑性回転角履歴に対して、Ψ=1ならびに0.8を用いて算定したスケルトン累積塑性回転角を表6に示しているが、ここで用いた地震応答履歴は繰返し回数が比較的少なかったため、両者に大きな差は認められなかった。5.まとめ 鋼構造ラーメン骨組の崩壊機構数を重要なもののみに低減した降伏多面体モデルを用いて簡略化応答解析を行い、得られた崩壊機構毎の塑性変形履歴を、塑性ヒンジの塑性回転角履歴に変換する手法を示し、6層2スパン骨組の応答解析例によりその適用性を調べた。また得られた塑性回転角履歴をスケルトン移動型の履歴モデルに適用してスケルトン累積塑性変形を評価し、単調変形能力と比較することにより部材耐力劣化に関わる受容判定を簡便に行う手法を示した。

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