スプリットティ接合による鋼構造柱脚の載荷実験

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  • TESTS ON STEEL COLUMN BASES WITH T-STUB CONNECTIONS

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1. はじめに 鋼構造建築物の柱脚の構造性能の安定化と向上を目的に高力ボルト接合を主体とする接合形式を提案し,載荷実験により力学性能を検証した.性と基礎梁にH形鋼を用いて高力ボルトによるスプリットティ形式の剛接合とし柱脚の曲げモーメントは基礎梁とのラーメン骨組で支持し柱軸力とせん断力は柱下端から基礎構造へ伝達することを想定している.地震時の骨組の終局状態は柱脚と基礎梁を弾性にとどめ,柱脚上部の性に形成される塑性ヒンジによるエネルギー吸収を期待している. 2. 載荷実験 2.1 試験体 提案する柱脚の力学性能を実験的に調べるため, Table 1に示す6体の試験体を用意した. Fig.1の中柱強軸方向の試験体TCは柱,基礎梁の反曲点から半分で構成されるT字形で,基礎梁および基礎梁と柱のボルト接合部はメッシュ筋だけを入れたコンクリートで覆われている.同様に外性強軸方向を模したL字形試験体LI (Fig.2) と中柱弱軸方向試験体TW (Fig.3) がある.これらの試験体の接合部の設計では,柱に降伏軸力の0.3倍の圧縮軸力が作用したときの全塑性モーメントの1.3倍の曲げモーメントが作用しても,基礎梁と柱脚接合部が塑性化しないことを条件として高力ボルト本数と接合部各部の寸法を決めた(Fig.5参照).また,実験による比較対象として,TCの被覆コンクリートを除いたTS,L1の接合部耐力を約1/2に小さくしたL2,現在の鋼構造に一般的なアンカーボルト降伏型露出柱脚のTA (Fig.4)を用意した. 2.2 実験装置 実験はFig.6に示す載荷装置を用いた.基礎梁端部はピン支持し,柱基部は反力台に載せ,柱頭に2本の油圧ジャッキで水平・鉛直方向へ載荷した.鉛直ジャッキで柱降伏軸力の0.3倍の一定軸力を与え,水平ジャッキでFig.7に示す履歴の漸増振幅による繰り返し載荷した.振幅は全体の回転角で1/50rad,1/25rad,1/15radとした. 2.3 計測 載荷荷重と試験体各部の変位を計測しFig.8に示す柱回転角θ_c,左右の基礎梁の回転角_lθ_b,_rθ_b,パネルゾーンのせん断変形角γ_p,左右の接合要素_lθ_j,_rθ_jの局所回転角を得て,各部の挙動を調べた. 3. 実験結果 3.1 全体挙動 Fig.10に各試験体の全体挙動を無次元化柱脚曲げモーメントポ_cM/_cM_pと層間変形角θ_αの関係で示す.図中に初期剛性の計算値も示し,実線は被覆コンクリートなし,破線はコンクリートを考慮した値である.いずれも初期剛性は被覆コンクリートを考慮した値とよく一致する.各試験体の挙動を以下にまとめる.TC:振幅0.02radまでは安定した履歴で、振幅0.04rad (図中▼) から柱の局部座屈による耐力低下が見られた.振幅O.O6radで局部座屈が顕著となり,図中×で柱ウェブに亀裂 (Fig.11) を生じて耐力を喪失した.損傷は柱の塑性化と局部座屈に限定され,柱脚接合部の損傷は観察されなかった. TS:振幅0.04radまでTCとほぼ同じ挙動を示した.被覆コンクリートが無いため,TCに見られた柱の変形に対するコンクリートの拘束がTSには起こらず,柱に亀裂は生じなかった.振幅O.O6radではTSの方がTCよりも履歴は安定しエネルギー吸収能力は大きい. L1、L2:L1の挙動はTCにほぼ同じである.L2は振幅0.06radで柱脚周辺の被覆コンクリートのテイフランジのある位置に,L1よりも大きく顕著なひび割れが観察された.実験後、被覆コンクリートを除去して観察したところ,L2のティフランジには面外曲げの残留変形が大きく見られたが,L1にはまったく見られなかった (Fig.12). TW:振幅0.06radに至るまで安定した履歴を示し柱フランジの局部座屈はわずかであった. TA:アンカーボルトの伸び降伏によりスリップ型の履歴を示し振幅0.12radでアンカーボルトが破断した. 3.2 初期剛性評価 柱,梁,高力ボルト接合部 (強軸方向:スプリットティ、弱軸方向:スプライスプレート),パネルゾーンの各構造要素について初期剛性の計算式を示した.梁とパネルゾーンについては被覆コンクリートの影響を考慮した場合も算定した. Table 3 に計算結果を示しTable 4 に試験体の全体変形に対する各要素の変形の比を示す.提案するボルト接合柱脚では,接合部の局所変形は全体の10%以下でほぼ剛接合と見なせる程度である. 3.3 耐力評価 柱,梁,パネルゾーンの全塑性モーメント,接合要素の降伏耐力の算定式を示した.試験体耐力の計算値は柱の曲げ耐力で決まり,材料試験による鋼材強度を使った値を実験結果と比較してTable 5 に示しだ. 3.4 要素毎の挙動 Fig.13, Fig.14に試験体TC,TSの柱,梁,パネル,接合部の要素別の履歴挙動を示す.柱だけが塑性化し,その他の部材と接合部はほぼ弾性に留まっている.図中には3.2節で示した各部の初期剛性の計算値を併せて示した.TCはコンクリートを考慮した剛性 (破線),TSは鋼材だけの剛性 (実線) と,それぞれ実験値がよく対応していること,またTSのパネル以外の接合部の各部はほぼ弾性に留まっていることを確認した. 3.5 エネルギー吸収能力 Table 5 に振幅0.04radの2サイクルまでの履歴曲線り面積E_pを比較して示す.露出柱脚TAよりも,提案柱脚が約2倍の大きな値を示しており,エネルギー吸収能力の高さが確認された. 4. 結論 提案する高力ボルト接合の柱接合部の載荷実験から、柱部材の塑性化によって安定した履歴と変形能力が得られることを確認した.接合部の局所変形は全体変形の10%以下でほぼ剛接合とみなすことができ,各要素の剛性計算の妥当性を実験結果から確認し,またここに示した耐力計算法を使って塑性化を柱に限定した接合部を設計できることが確認された.

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