重粒子線誘発バイスタンダー効果が生体免疫能に与える影響

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  • Heavy-ion microbeam irradiation induces bystander effect in human THP-1 macrophages

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近年、がんの重粒子線治療が注目されているが、生体免疫能の要となる免疫細胞は、がん腫瘍内・近傍に集積するため、治療による重粒子線照射が免疫細胞の連携に変化を引き起こし生体免疫能のバランスを崩すことで、治療成績に影響を与える可能性が存在する。また、高LETの重粒子線照射では、照射細胞が周辺の非照射細胞にも照射効果を誘導する現象:バイスタンダー効果の寄与が大きくなることから、生体免疫能への影響評価にあたっては、バイスタンダー効果を含めた検討が必須である。そこで本研究では、免疫細胞試料を重粒子線で全体あるいは部分的に照射し、重粒子線によるDNAや細胞膜の損傷が生体免疫能にどのように関与するかを、照射細胞が分泌する伝達物質の変化とその機構を中心に、バイスタンダー効果に焦点を当て解析した。ヒト急性単球性白血病由来細胞株THP-1をマクロファージに分化誘導し、炭素線(18.3 MeV/u、LET=108 keV/μm)を細胞集団全体に照射(0-50 Gy)した。また、試料を部分的に照射できるマイクロビーム照射で、細胞集団の一部の細胞(0.45%)のみを5 Gyの炭素線で照射した。照射後、細胞を培養し、細胞が産生した免疫細胞間シグナル伝達物質であるサイトカイン(IL-6、TNF-α)量をELISA法で定量解析した。5 Gyの炭素線均一照射試料では、IL-6とTNF-αの産生量が非照射対照と比べ50%減少した。また、マイクロビームによる部分照射でも、全体照射試料と同様にサイトカイン産生量が減少した。この結果は、照射された一部の照射シグナルを残り大多数の非照射細胞(99.55%)に伝達し照射効果を誘導したと考えられた。このことから、炭素線を低線量で照射した免疫細胞では、サイトカイン産生抑制のバイスタンダー効果が誘導されることが示唆された。

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