フタスジモンカゲロウの体表に付着生活するグロチア属(トリコミケス綱)の一新種
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- 出川 洋介
- 神奈川県博
書誌事項
- タイトル別名
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- A new species of the genus <I>Glotzia</I> (Trichomycetes), growing externally on the surface of the host animal, <I>Ephemera japonica</I>
抄録
狭義のトリコミケス綱(ハルぺラ目・アセラリア目)は節足動物腸内の絶対寄生(共食性)菌であり,腸管内で栄養を摂取する.例外的に胞子のみを体外に形成する種も知られるが,付着器は常に腸管内に位置する.今回,ハルペラ目において初めて,腸管外に付着器を生じ,体表付着生活をする種が明らかにされたので報告する.<BR> 2004~7年に神奈川県小田原市入生田,中郡大磯町の渓流砂泥中より採集したフタスジモンカゲロウ(Ephemera japonica)の幼虫の体表にハルペラ目様の菌を得た.菌体は宿主の腹部末端,第九腹節の体表(尾毛の脇)又は尾毛表面に付着器を生じ分枝しながら直伸し,発達すると尾毛のように見える.主軸は最大幅約50μm×長さ1.5mmを超え,基部付近の複数の細胞より小枝を側生し,3-4回の散形分枝を繰り返し放射状に胞子を生じる.胞子は長さ約100μmに達す円筒型,基部両端に湾曲する付属糸を伴う.2007年9月には入生田産宿主個体の尾毛の腹面に接合胞子形成が認められた.同個体の尾毛表面には毛に沿って匍匐菌糸が見られ,その所々に付着器が形成されていた.付着器より腹面に伸びた菌糸の分枝末端には接合胞子塊が,背面に伸びた先には古い無性生殖菌体が認められた.接合胞子は細長い菱形で約6×40μm,接合枝に対し鋭角をなし,Moss et al.(1975)の類型のII型に該当する.現段階では胞子の第三付属糸は未確認だが,以上の形態的特徴に基づき本菌は,カゲロウおよびカワゲラ目昆虫の幼虫腸管内に生息し世界より6種が知られるグロチア属の未記載種と同定された.<BR> 宿主フタスジモンカゲロウの幼虫は掘潜型で,渓流の砂泥底で濾過摂食をして生活する.このため,水底の巣中で排泄物は拡散せずに停滞し,本種はそこで栄養摂取をしていると推定される.従来,本綱とされた腸内性のエクリナ目(現メソミケトゾア類)にも,掘潜性の宿主上で例外的に体表付着性の種が知られ,この性質は宿主の生態に応じ平行的に生じるものと考えられる.体表付着生活に適応し,腸管内での物理的拘束から解放された結果と解釈される本種の形態・生態的特性について,その意義を考察した.
収録刊行物
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- 日本菌学会大会講演要旨集
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日本菌学会大会講演要旨集 52 (0), 42-42, 2008
日本菌学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680637142656
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- NII論文ID
- 130007004630
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可