小脳梗塞により体幹失調を呈した症例の転倒予防に向けての一工夫
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説明
【はじめに】 今回、小脳梗塞により体幹失調を呈し在宅生活においても転倒を繰り返す症例を経験した。体幹失調による動揺に対して体幹バンド装着下での体幹協調性の改善、反復的なステップ動作練習を施行した結果、転倒予防に効果的であったと考えたので文献的考察を交えて報告する。<br>【症例紹介・経過】 80歳代の女性である。平成22年に小脳梗塞を発症し、その後在宅生活にて転倒を繰り返していた。平24年1月上旬に糖尿病による高血糖と乏尿にてA病院入院した。同年2月上旬にリハビリ目的にて当院へ転院し、翌日より理学療法を開始した。<br>【初診時理学所見】 コミュニケーション良好、訓練に対して協力的であった。ROMに著明な制限はなく、MMTは両股関節屈曲4、外転3、両膝関節伸展3、両足関節背屈3、底屈2+、体幹屈曲2であった。座位および立位において体幹の立ち直り反応は陰性、立位における踏み出し戦略も陰性であった。四肢失調認めず、体幹協調機能ステージ2、ロンベルグ徴候陽性であった。ADLは起居・移乗動作自立、T字杖歩行軽介助(10m歩行18.66秒)であった。<br>【理学療法】 週4回の理学療法を3ヶ月間施行した。主に筋力強化、体幹協調機能改善を目的として、筋力強化練習、閉眼端座位にて前後左右方向への外乱・内乱負荷を加える練習を各方向10回施行した。また平行棒内立位で前後左右への踏み出し動作練習を各方向50回施行した。また体幹失調の抑制目的で、練習時に体幹バンドを常時装着して行った。<br>【現在の理学所見】 MMTは両足関節底屈3、体幹屈曲3と筋力の改善を認めた。座位および立位において体幹の立ち直り反応及び踏み出し戦略が出現した。体幹協調機能はステージ1と改善を認め、ロンベルグ徴候は陽性と変化を認めなかった。歩行時の動揺性は減少し、T字杖歩行監視レベルとなった。<br>【考察】 小林らは小脳失調に対して求心性入力を考慮した練習の必要性を述べており、森らは体幹バンドは動揺性の減少、立ち直り反応の誘発に効果的であると述べている。本症例においても体幹バンド装着下にて運動療法を行う事で固有受容器が刺激され、脊髄オリーブ小脳路、登状線維を介した小脳プルキンエ細胞への求心性入力有利の下運動プログラムが補正され体幹協調機能の改善、重心動揺の減少、立ち直り反応の改善が得られたと考えた。丸山は筋疲労や運動学習は運動皮質内抑制の低下を導くことができ、大脳の運動皮質内の可塑的変化を引き起こす可能性があると述べている。本症例においては反復練習が大脳皮質で統合されている踏み出し戦略の運動プログラムを再構築し、さらに運動学習によって動作の迅速性が得られたと考えた。体幹運動失調に対して小脳系ループの強化を図りつつ、大脳皮質レベルでの踏み出し戦略を改善したことで効果的に運動学習が得られたと考えられた。
収録刊行物
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- 東海北陸理学療法学術大会誌
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東海北陸理学療法学術大会誌 28 (0), 77-, 2012
東海北陸理学療法学術大会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680642970624
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- NII論文ID
- 130005455997
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可