脳幹部腫瘍摘出後、自覚症状を伴わない著明な起立性低血圧を呈した一症例

DOI
  • 足立 佳世
    国立大学法人 浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 中村 重敏
    国立大学法人 浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 森島 優
    国立大学法人 浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 倉田 千裕
    国立大学法人 浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 長島 正明
    国立大学法人 浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 美津島 隆
    国立大学法人 浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 山内 克哉
    国立大学法人 浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 伊藤 倫之
    国立大学法人 浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 入澤 寛
    国立大学法人 浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション部

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抄録

【はじめに】起立性低血圧(以下OH)は、長期臥床、自律神経障害等の原因によって起こり、離床を進める上で大きな阻害因子となる。今回、我々は脳幹腫瘍摘出後に自覚症状を伴わない著明なOHを呈し、離床に難渋した症例を経験したので報告する。尚、本発表の主旨及び目的を十分に説明した上で、書面にて同意を得た。<BR> 【症例紹介】63歳女性。診断名:脳幹部腫瘍。6月頃より嚥下障害出現。翌年2月左下肢自重感、呂律不全あり近医受診。精査で脳腫瘍発見され、同年3月当院入院。4月中旬、腫瘍摘出術・気管切開術施行。術後14日目、ADL能力向上、排痰援助目的で当科受診。<BR> 【初期評価】O24l/分投与下、SpO297%、坐位時BP107/60mmHg、HR80回/分。意思疎通は筆談で行う。嚥下障害あり。四肢に著明な麻痺はなく、MMT両上下肢5。軽度四肢協調運動障害を認めた。基本動作は自立。ADLはBarthel Indexで65点であった。<BR> 【経過】術後14日目より、排痰援助、歩行練習を開始。血圧は日差あり、日内変動みられることもあったが、著明なOHなく訓練を実施していた。しかし45日目、検査中に意識消失した。47日目、臥位時BP162/82mmHg、HR74回/分から、端座位時BP76/41mmHg、HR73回/分とOHを認めた。抗重力位姿勢変換時の心拍による代償なく、また自覚症状もなかった。そのため、以後はベッドサイドにて血圧管理下での筋力強化訓練、座位訓練を行った。OHに対し、腹帯・弾性包帯使用するが著しい効果は認めず、むしろ静脈還流量を増加させる目的で足関節底背屈運動を行ったところ、端座位では血圧低下を抑えられた。しかし、立位では血圧低下を認めた。<BR>その後、日中の血圧は臥位で130-190/70-90mmHgと変動大きく、またOHの改善も認めなかった。しかし、午後であれば安静時血圧が高値となり、OH出現後も収縮期血圧100mmHg以上を維持できるため、訓練時間を午後に設定し、61日目より訓練室での筋力強化訓練、歩行訓練を再開した。現時点では血圧管理の下に訓練を進めているが、依然として立位では自覚症状を伴わない著明なOHを認める。<BR> 【考察】臥位から抗重力位への姿勢変換時の循環調節応答は、まず下肢へ血液が移動→1回拍出量の減少→中心静脈圧・動脈圧の低下→心肺受容器・圧受容器→延髄の血管運動中枢→副交感神経活動抑制・交感神経活動促進→血圧維持となる。本症例では脳幹腫瘍により血管運動中枢が障害されたためにOHをきたしたと考えられる。OHに対する治療として薬物療法が挙げられるが、臥位では血圧高値となるため適応外と考えられる。理学療法としては、腹帯や弾性包帯の使用と、座位・起立訓練が挙げられる。現在、訓練実施中であるが、OHの著明な改善は認めない。退院後、日常生活の中での血圧管理が課題と考える。

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