在宅におけるピークフロー値評価の有用性について

DOI
  • 金谷 義斗
    有限会社リハぷらす リハぷらす訪問看護ステーション
  • 田中 翔太
    有限会社リハぷらす リハぷらす訪問看護ステーション
  • 加畑 昌弘
    有限会社リハぷらす リハぷらす訪問看護ステーション
  • 盆出 義也
    林病院 リハビリテーションセンター

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抄録

【目的】<BR> ピークフローメーターは,慢性気管支炎や喘息等の閉塞性換気障害の患者が病態を知る手段の一つとして広く普及しており,家庭でも安全に使用できる機器である.さらに,操作が簡便で携帯が可能であり,かつ安価である特徴がある.臨床上,呼気機能が低下している患者には運動能力の低下がみられる症例を経験する.そこで今回,地域高齢者の運動機能を知る指標(目安)の一つとしてピークフローメーターの値が有効ではないかと考えた.<BR> 本研究の目的は,地域高齢者のpeak flow(以下、PEF)が各種運動能力と活動性に及ぼす影響について調査することである.<BR> 【方法】<BR> 研究内容の理解が可能であり,被検者となることに同意を得た地域高齢者18名(男性3名,女性15名,平均年齢78.4±4.8歳)を対象者とした.対象者のうち,1日の歩行数が1000歩以上の者(以下,活動群)と1000歩未満の者(以下,不活発群)に分類してPEFに有意差があるかをt検定にて検定した.有意水準は5%未満とした.また,対象者の握力,Timed Up and Go test(以下,TUG),5m歩行スピード,5回立ち上がりテストを行いPEFと相関があるかを検定した.PEFの測定にはアセスピークフローメーター(フィリップス・レスピロニクス合同会社製)を用いた.呼吸器疾患・喫煙歴のある者や歩行が自立していない者は対象者から除外した.本研究は厚生労働科学研究に関する指針に従った.<BR> 【結果】<BR> PEFと握力の間には強い相関がみられた(相関係数0.874).対象者のうち,活動群は12名,不活発群は6名であり,活動群のPEFと不活発群のPEFとの間には有意差が見られた(p<0.05).PEFとTUG,5m歩行スピード,5回立ち上がりテストの各間には相関があるといえなかった.<BR> 【考察】<BR> 今回の実験の結果から,在宅におけるピークフローの測定は活動性の把握と,全身の筋力低下の目安(評価)として有効であると考えた.<BR> 今回の実験ではPEFと握力において強い相関がみられた.その理由として,握力は全身の筋力と相関しており,筋力の指標として用いられている.そのことからも,PEFは対象者の筋力と相関することが示唆されると考える.PEFとTUG,5m歩行スピード,5回立ち上がりテストの各間には相関があるといえなかった.これらは,筋力の他にバランス能力や痛み,運動麻痺等が動作能力に及ぼす影響が大きいためと考える.<BR> 活動性の指標は様々あるが,在宅においては1日の歩行数が1000歩未満の者は,トイレや食事等の必要不可欠な動作以外はあまり活動していないことはよく知られている.よって,本研究では1日の歩行数1000歩をカットオフポイントとして活動性の指標とした.<BR> 本研究の結果から,活動群のPEFは不活発群のPEFと比べて有意差があり,活動性の指標の1つとなりうることが示唆された.これは,活動性の低下により,下肢の筋活動・抗重力筋の活動性が低下することで,循環機能や呼吸機能(特に,吸気筋・強制呼気筋)が低下するためと考えられる.さらに,廃用性の筋萎縮が_I_型線維(赤筋)よりも_II_型線維(白筋)に早期に起こりやすいことに起因するのではないかと考えられる.斉藤らは,最大筋力は1週間の不使用で10~20%低下すると報告している.また,東儀らは若年者と比べて高齢者の胸鎖乳突筋は_II_型線維の萎縮が著明であり,横隔膜や肋間筋は_I_型線維の筋萎縮が著明であると報告している.つまり,活動性の低下は呼吸筋の最大筋力を低下させる可能性が高く,最大筋力が低下した結果,PEFも低下するのではないかと考える.<BR> 上記のことから,PEF値を測定することで全身筋力の状態や活動量を評価する指標となることが示唆され,定期的にPEF値を測定していくことが重要であると考える.<BR> 【まとめ】<BR> 5m歩行や6分間歩行などの検査ではスペースが確保しづらい在宅リハビリに於いて,活動性・筋力低下の目安(評価)の一つとしてピークフロー値を用いることには大いに意義があることが示唆される.今後は,廃用症候群を予防するための指標となるPEFの数値を示していけるよう研究を継続していきたい.

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