脊椎圧迫骨折患者の在宅復帰が社会的要因にて遅延した3例

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抄録

【目的】 脊椎圧迫骨折は加齢とともに発生率は上昇し、歩行や日常生活動作能力、QOL低下の要因となることは多い。当院でも脊椎圧迫骨折で入院する患者は多い。今回、脊椎圧迫骨折患者の在宅復帰が遅延した症例を報告する。<br>【方法】 2011年4月1日から2012年3月31日に当院外来受診し脊椎圧迫骨折の診断で入院し、自宅退院となった17例を対象とした。17例の平均在院日数は40.3日±19.9日。在院日数が60日を超えた3例を以下に示す。<br>【説明と同意】 今回の発表に関しては17例に説明し了承を得た。<br>【症例報告】 <br>〈症例1〉 在院日数68日。73歳、男性。3人暮らし。退院予定先は本人、家族ともに自宅。要介護度は要支援2。歩行能力は入院前、退院時ともに独歩。入院時FIM48点(運動項目19点、認知項目29点)。退院時FIM115点(運動項目86点、認知項目29点)。<br>〈症例2〉 在院日数78日。85歳、女性。独居。退院予定先は本人自宅、家族は施設。介護保険は未申請。歩行能力は入院前、退院時ともに独歩。入院時FIM93点(運動項目58点、認知項目35点)。退院時FIM110点(運動項目78点、認知項目32点)。<br>〈症例3〉 在院日数70日。84歳、女性。独居。退院予定先は本人、家族ともに自宅。介護保険未申請。歩行能力は入院時、退院時ともに独歩。入院時FIM64点(運動項目35点、認知項目29点)。退院時FIM105点(運動項目76点、認知項目29点)。<br>【経過報告】 症例1は痛み消失とともに身体機能向上したため、入院33日後に外泊を行い退院予定であった。しかし、外泊中はベッド臥床が多く、家族が退院に対して不安が強く退院を延期する事となった。その後、入院中のADL介入を積極的に進めトイレや食事以外の日常生活活動量が増加したところで再び家族に現状ADLの確認と説明を行い退院となる。<br> 症例2の転帰予定先は、本人・家族間が不仲であったこともあり、独居から同居への変更は困難で、家族の施設入所希望に対して、本人は独居生活を頑なに希望した。徐々に疼痛軽減しADL向上を認めたため、本人の在宅復帰希望が強くなる。その一方、家族の意向は施設入所希望と変化なく、意見の相違が続き退院の調整が遅延。その後、自宅退院するため、さらに介護サービス利用等の調節することに時間を必要とした。<br> 症例3は独居に加え、和式生活に戻るために床からの立ち上がり獲得は必須であった。また寝具が布団である点、自宅トイレ便座が低く立ち上がれない点で環境調整が必要にもかかわらず、介護保険未申請の状態であった。申請の遅れにより介護サービス導入までに時間がかかり退院遅延となった。<br>【考察】 脊椎圧迫骨折患者の在宅復帰には退院時の日常生活活動能力・歩行能力が大きく影響するが、それらを低下させる因子としては疼痛の関与が大きいといわれている。また先行文献によると、FIMの運動項目70点付近が在宅復帰の目安と報告がある。今回3症例とも疼痛の遷延なく、入院後40日目には70点以上であったにもかかわらず、退院が遅延したのは独居、高齢世帯、家屋環境等の社会的要因であった。ADL能力向上に合わせて、家族との関わりやMSW・ケアマネージャーの他職種との連携が重要であり、早期からの退院後生活を見据えたアプローチが必要であった。

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