高齢の慢性心不全患者の入院後早期における生命予後と栄養障害との関連

DOI
  • 服部 幸介
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 鳥居 亮
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 三次 園子
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 安本 旭宏
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 飯田 泰久
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 木下 友加里
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科

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抄録

【目的】<BR> 栄養状態の維持・改善は,薬物療法,運動療法と並んで慢性心不全の管理上重要な位置付けにあるといわれている.先行研究では,慢性心不全患者について,body mass index(以下,BMI)が高いほど生命予後が良好であるという報告がされている.その一方で,慢性疾患を有する高齢入院患者では栄養障害を合併する頻度が高く,当院の高齢入院患者においても栄養障害を合併する傾向にある.理学療法を実施する上で,著しい栄養障害を有する患者への抵抗運動は禁忌であり,栄養状態の把握が重要となる.<BR> 今回,慢性心不全の急性増悪にて当院に入院した高齢患者において,入院後早期の生命予後と栄養障害との関連を後方視的に調査した.<BR> 【方法】<BR> 対象は2009年4月1日から2011年3月31日までに慢性心不全の急性増悪にて当院に入院し,2011年5月31日までに退院した75歳以上の高齢患者のうち,情報収集が可能であった94名とした.このうち,入院30日後の時点で生存していた69名を生存群,30日後の時点で死亡していた25名を死亡群とした.この2群と,入院時の「年齢」,「性別」,「BMI」,「血清アルブミン(以下,Alb)値」,「ヘモグロビン(以下,Hb)値」,「C反応性蛋白(以下,CRP)値」の各項目との関連について調査した.また,心不全の重症度を把握するため「脳性ナトリウム利尿ペプチド(以下,BNP)値」を項目に追加した.<BR> 統計処理は,「年齢」,「BMI」,「Alb値」,「Hb値」,についてはスチューデントt検定,「CRP値」,「BNP値」についてはマン・ホイットニ検定,「性別」についてはχ2検定を用い,有意水準を5%未満とした.<BR> なお,対象者には入院時に個人情報保護に関する説明を行い,各個人の情報について,匿名のもと開示することの同意が得られている.<BR> 【結果】<BR> 年齢(平均値)は,生存群:87.4±6.0歳,死亡群:90.1±6.5歳,性別は,生存群:女性54名/男性15名,死亡群:女性20名/男性5名,BMI(平均値)は,生存群:20.5±4.0kg/m2,死亡群:19.8±4.9kg/m2,Alb値(平均値)は,生存群:3.0±0.5g/dl,死亡群:3.1±0.7g/dl,Hb値(平均値)は,生存群:10.6±2.0g/dl,死亡群:10.5±2.4g/dl,CRP値(中央値)は,生存群:1.5mg/dl,死亡群: 3.3mg/dl,BNP値(中央値)は,生存群:380.2pg/ml,死亡群:782.1pg/mlであった.このうち,CRP値,BNP値において,生存群と死亡群の間に有意差が認められた.<BR> 【考察】<BR> 今回の調査の結果,一般的に栄養状態を示すといわれているAlb値やBMI,さらに,栄養状態と関連するといわれているHb値において,両群間に有意差は認められず,入院後早期における生命予後と栄養障害との関連は示されなかった.これは,Alb値の半減期が約20日と比較的長く,急激な栄養状態の変化には反応しないため,入院時の情報では両群と栄養状態との間に関連が認められなかったと考えられた.たとえ入院時の値が良好でも理学療法を実施する場合,検査値の変化を追う必要があると考えられた.さらに,生存群と死亡群ともに栄養障害の指標となるAlb値3.5g/dl以下,Hb値11.0g/dl以下に該当し,BMIにおいては標準値ではあるものの,厚生労働省の示す全国平均を下回る状態であったため,両群間に有意差が認められなかったのではないかと考えられた.一方で,CRP値,BNP値では両群間に有意差が認められた.これは,感染など何らかの原因で炎症が起こったことで,心臓への負担が増大し,その結果,急性増悪に至り心不全を重症化させ,入院後早期の生命予後を不良にしたと考えられた.<BR> 今後は,入院期間中の栄養状態を継続して調査し,生命予後と栄養障害との関連を検討していきたい.<BR> 【まとめ】<BR> 慢性心不全の急性増悪にて入院した75歳以上の高齢患者を,入院30日後の時点で生存していた患者69名(生存群)と,死亡していた25名(死亡群)に群分けし,年齢,性別,BMI,Alb値,Hb値,CRP値,BNP値との関連を調査した.その結果,CRP値とBNP値において,両群間に有意差が認められた.以上のことから,慢性心不全の急性増悪にて入院した高齢患者において,入院後早期の生命予後に関しては,炎症や心不全の重症度に影響され,栄養障害には影響されないことが示唆された.

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