膝前十字靭帯再建術の術後筋力に影響を与える術前因子について

  • 上野 弘樹
    やわたメディカルセンター リハビリテーション技師部
  • 後藤 伸介
    やわたメディカルセンター リハビリテーション技師部
  • 木下 潤子
    やわたメディカルセンター リハビリテーション技師部
  • 岡本 江美
    やわたメディカルセンター 医療統計部
  • 中村 立一
    やわたメディカルセンター 整形外科

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説明

【目的】 膝前十字靭帯(以下ACL)再建術後の機能的指標として筋力が用いられることが多く、特に膝関節(以下膝)伸展筋力の回復はスポーツ復帰を左右する重要な要因であると報告されている。また、スポーツ復帰時期の目標をACL再建術後6ヶ月(以下術後)と設定した文献が散見されるが、その時点でも十分な膝伸展筋力の回復に至らない症例もいる。そこで本研究では、術後での等速性膝伸展筋力に影響を与える術前因子を調べ、早期回復のための要因について検討する。<br>【方法】 対象はACL断裂の初回受傷例で、当院にて平成22年2月から平成23年12月の間に半腱様筋腱または半腱様筋腱及び薄筋腱を用いたACL再建術を施行した症例とした。その中から両側損傷例や複合靭帯損傷例を除外し、術前及び術後での等速性膝屈曲・伸展筋力の測定が可能だった22例について分析した。平均年齢は32.4±13.5歳で、性別は男性6例、女性16例であった。本研究はRetrospective studyとし、カルテより次の項目の数値を情報収集した。その項目は、術前の身長、体重、疼痛(Face Rating Scale)、患側の膝屈曲・伸展可動域(自動・他動)、患健側の等速性膝屈曲・伸展筋力(角速度60deg/secでのピーク値)、JOAスコア、術前理学療法実施単位数(1単位20分間、術前2週間以前)とし、筋力は膝伸展筋力を体重比(単位:N/㎏)として表すと共に、膝屈曲・伸展筋力の患健比(単位:%)も算出した。また、術後における同様の筋力測定値も収集した。筋力は川崎重工業社製マイオレットRZ-450を用いて測定した。次に、術後の患側膝伸展筋力を従属変数とし、前述の術前での各数値を独立変数として、ステップワイズ重回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。<br>【結果】 術後の患側膝伸展筋力に関係する変数として、術前の患側膝伸展筋力、年齢、術前の膝屈曲筋力患健比、術前理学療法実施単位数が抽出され、その回帰式は次の通りであった。<br> 術後の患側膝伸展筋力=術前の患側膝伸展筋力×0.261-年齢×0.082+術前の膝屈曲筋力患健比×0.036+術前理学療法実施単位数×0.273+6.077(自由度修正済決定係数R2=0.501、p<0.01)<br>【考察】 ACL再建術後の筋力回復に影響を与える因子として、術前筋力・競技レベル・性別などが報告されている。本研究でも術後の患側膝伸展筋力に術前筋力が関係していることが示唆され、同様な結果となった。また、術後の患側膝伸展筋力に術前理学療法実施単位数や年齢が影響していたが、前者に関しては術前理学療法により受傷後の身体機能をより適切に保ちやすく、早期から運動負荷を高めていくことができたことによるものと考える。よって、術前に十分な理学療法が実施されることは、術後筋力の早期回復のために重要だと推察された。また後者に関しては、加齢により筋量や筋力増強効果が低下すると言われており、そのため年齢が術後筋力に影響していたと考える。従って、年齢に応じて術後運動負荷量やスポーツ復帰時期を調整していく必要性があると示唆された。<br>【まとめ】 ACL再建術後筋力には、その術前筋力以外に術前理学療法実施単位数や年齢も影響を与えている可能性がある。

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