介護老人保健施設入所者における慢性心不全の急性増悪に影響する因子の検討

DOI
  • 鳥居 亮
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 本庄 正博
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 三次 園子
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 服部 幸介
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 樋口 恵
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 木下 友加里
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 太田 高徳
    医療法人清水会 豊明老人保健施設
  • 高森 慎司
    医療法人清水会 豊明第二老人保健施設
  • 中園 弘朗
    医療法人清水会 ひかり老人保健施設

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抄録

【目的】<BR> 慢性心不全(以下,CHF)は虚血性心疾患,高血圧症などの器質的心疾患の終末像である.CHF患者の多くは入退院を繰り返す高齢者であり,超高齢社会の到来によりその数は増加している.当院には,併設する介護老人保健施設(以下,老健)から入院するCHF患者が多くみられる.本研究は,老健に入所中でCHFを既往に持つ75歳以上の高齢者において,CHFの急性増悪に影響する因子を検討することを目的とした.<BR> 【方法】<BR> 対象は,既往にCHFがある当法人の老健入所者で,2009年1月から12月の間にCHFの急性増悪と診断され,当院に在院した75歳以上の入所者50名を入院群(平均年齢89.2歳)とし,1年以上CHFの急性増悪による入院を経験せずに,同期間に老健に在籍した75歳以上の入所者52名を非入院群(平均年齢88.5歳)とした.なお,当院および老健での診療録より情報が得られなかった者は除外した.入院群,非入院群において,年齢 [85歳以上・85歳未満],性別 [男性・女性],障害高齢者の日常生活自立度(以下,寝たきり度) [A1~2・B1~2・C1~2],認知症 [有・無],基礎疾患のうち,虚血性心疾患 [有・無],高血圧症 [有・無],弁膜症 [有・無],不整脈 [有・無],これら基礎疾患の合併数 [1つ・2つ以上]を調査した.入院群,非入院群と各調査項目との関連を,χ2検定を用いて検討し,有意水準を5%未満とした.なお,対象者に対し,入院時または入所時に個人情報保護に関する説明を行い,各個人データについて匿名のもと開示することの同意が得られている.<BR> 【結果】<BR> 入院群では,年齢 [85歳以上:38名・85歳未満:12名],性別 [男性:10名・女性:40名],寝たきり度 [A1~2:4名・B1~2:33名・C1~2:13名],認知症 [有:45名・無:5名],虚血性心疾患 [有:23名・無:27名],高血圧症 [有:33名・無:17名],弁膜症 [有:7名・無:43名],不整脈 [有:19名・無:31名],基礎疾患の合併数 [1つ:21名・2つ以上:29名]であった.非入院群では,年齢 [85歳以上:43名・85歳未満:9名],性別 [男性:9名・女性:43名],寝たきり度 [A1~2:7名・B1~2:37名・C 1~2:8名],認知症 [有:49名・無:3名],虚血性心疾患 [有:12名・無:40名],高血圧症 [有:25名・無:27名],弁膜症 [有:6名・無:46名],不整脈 [有:21名・無:31名],基礎疾患の合併数 [1つ:39名・2つ以上:13名]であった.このうち,虚血性心疾患の有無と,基礎疾患の合併数が1つまたは2つ以上について,両群の間に有意な差が認められた.<BR> 【考察】<BR> 今回の結果,虚血性心疾患と合併症の数の2点が,CHFの急性増悪に影響する因子となることが示唆された.本邦の先行研究では,高齢CHF患者の基礎疾患の36%が虚血性心疾患であると報告している.また,虚血性心疾患由来のCHF患者は,非虚血性心疾患由来のCHF患者よりも予後が悪いとの報告がある.心筋虚血は,収縮・拡張機能の双方を障害し,さらにCHFによる血液供給の不足は心筋虚血を増強するという悪循環を形成する.本研究において,虚血性心疾患が基礎疾患である者が入院群に多く認められたのは,この悪循環によって障害された心筋が,何らかのきっかけで容易にCHFの増悪に至った可能性があると考えられた.<BR> 基礎疾患のうち,虚血性心疾患は直接心筋に障害を与え,弁膜症や高血圧症は長期的に心筋に負担をかけ,不整脈は血行動態の悪化を招き,それぞれが心不全へと進行していく.これらの基礎疾患が単一である非入院群に比べ,複数合併している入院群は,より重症な心不全であると考えられた.<BR> したがって,老健でCHFを既往に持つ入所者に対してリハビリテーションを進めていく場合,基礎疾患を把握する重要性が示唆された.<BR> 一般にCHFの増悪因子として,感染症,服薬や水分・塩分の過剰摂取などが原因といわれているが,本研究では増悪因子の原因の調査は行っておらず,今後調査していきたいと考える.<BR> 【まとめ】<BR> 老健に入所中でCHFを既往に持つ75歳以上の高齢者のうち,CHFの急性増悪によって入院した入所者(入院群)と,入院しなかった入所者(非入院群)を比較した.その結果,入院群は基礎疾患が虚血性心疾患である者の人数と,複数の基礎疾患を有する者の人数が多く,両群の間に有意な差が認められた.したがって,CHFを既往に持つ入所者に対してリハビリテーションを進めていく場合,基礎疾患を把握する重要性が示唆された.

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