クリニカル・クラークシップを導入した臨床実習の成果

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【はじめに】 <BR> 理学療法教育において,臨床力を向上させるために,リアリティのある臨床での経験の積み重ねの重要性は周知の通りである.近年,臨床教育を取り巻く環境は変化し,従来の臨床実習形態についての問題が指摘され,臨床実習の問題解決のためにクリニカル・クラークシップ(以下,CCS)の導入の取り組みがなされ,報告されている. <BR> 今回,従来の臨床実習とCCSを導入した臨床実習の評価結果と実習終了後の学内における症例報告会の評価結果より,CCSを導入した臨床実習の成果について検討を加え報告する. <BR>【対象と方法】 <BR> 対象は,当校理学療法学科学生とし,2005年(3年次)~2006年(4年次)に従来の臨床実習を行った31名,2009年(3年次)~2010年(4年次)にCCSを導入した臨床実習を行った30名とした. <BR> 対象学生に対して事前に研究の目的を説明し,同意を得た.また,個人情報の保護・管理のため,対象データは連結可能匿名化を行った. <BR> 臨床実習成果を検証するために,各実習形態での臨床実習評価の傾向の違い,実習評価と実習終了後の学内での症例報告会(実演も含む)での評価を比較した.従来の臨床実習評価項目は39項目で,4段階の評定尺度で臨床実習指導者によって評価された.CCSでの臨床実習評価項目は167項目で,臨床実習指導者が学生の行動結果を評定基準に基づき評価した.評価項目のチェック数を加算し,項目数で除したものを臨床実習評価点とした.なお,従来の臨床実習における臨床実習評価点の算出にあたっては,教育目標分類の3領域ごとに,臨床実習指導者が記録した各領域に属する評価項目の評定尺度の平均値とした.実習終了後に学生が行う実演を含めた症例報告に対して,複数の理学療法学科教員が当校で作成した評価表の12項目について,5段階の評定尺度で評価を行った.臨床実習後の症例報告会の評価点は,全評定尺度の平均値とした. <BR> 各実習形態での各期臨床実習評価点の検定は,Friedman検定を用いて行った.また,臨床実習評価点と臨床実習後の症例報告会の評価点との関係についてpearson’s相関係数の検定を行った. <BR>【結果】 <BR> 1)実習時期と臨床実習評価点 CCSを導入した臨床実習の臨床実習評価点は,臨床実習_I_(3年次):80.37±15.98,臨床実習_II_(4年次):87.37±13.27,臨床実習_III_(4年次):92.03±9.59であり,時間に比例して臨床実習評価点は,有意に高くなる傾向にあった(p<0.01).従来の臨床実習の臨床実習評価点は,臨床実習_I_:3.12±0.38,臨床実習_II_:3.08±0.31,臨床実習_III_:3.25±0.34であり,臨床実習_II_が臨床実習_I_に比べ,わずかに低値を示した.また,従来の臨床実習の実習時期別の臨床実習評価点については,統計学的に有意差が認められなかった. <BR> 2)臨床実習評価点と臨床実習後の症例報告会の評価点 クリニカル・クラークシップを導入した臨床実習の臨床実習評価点と臨床実習後の症例報告会の評価点との間に相関関係(r=0.51,p<0.01)を認めたが,従来の臨床実習の臨床実習評価点と臨床実習後の症例報告会の評価点との間には,相関関係が認められなかった. <BR>【考察】 <BR> 本研究では,理学療法スキルの向上に関する臨床実習の成果については,従来の臨床実習では,実習時間数に比例して臨床実習評価点の増加が認められなかった.この結果より,臨床実習において理学療法スキル向上のための学習支援の方略に誤りがあったか,評価そのものが妥当でなかった可能性が示唆される.また,本来は臨床実習教育課程において,目標達成のために形成的な学習成果を求めるべきであるが,従来の臨床実習過程における3年次の臨床実習が評価実習として位置づけられ,4年次からの臨床実習の目標,方略が別のものとして取り扱われ,評価されていたと推察する.これに対し,CCSを導入したことにより,3年次より一貫した目標達成のために形成的な学習成果を上げることが出来たと考えられる.臨床実習評価点と臨床実習後の症例報告会の評価点の関係について,従来の臨床実習では相関関係を認めなかったが,CCSを導入した実習では,両者に相関関係を認めた.従来の臨床実習評価における問題として考えていた行動評価としての評価尺度のあり方について,CCSで導入した臨床実習評価表の活用により,学生の能力を指導者が妥当に把握できたと考えられる.

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