一秒率低下により全身麻酔手術困難とされた胃癌患者への術前介入効果

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  • COPD合併の一症例

抄録

【目的】 全身麻酔を必要とする上腹部外科手術では一時的に術後呼吸機能低下がみられる為,低肺機能患者では術後合併症の危険性が高い.今回, GOLD分類_III_期,Hugh-Jones分類_III_COPD合併胃癌症例において,術前吸器リハビリテーション(以下 術前リハ)介入を行った.その結果,手術適用となり胃癌根治術を行えたので,詳細を報告する. 【方法】 対象は,80歳代女性.検査にて胃癌を指摘され,幽門部切除手術予定となる.術前検査でCOPD合併により呼吸機能特に,FEV1.0・FEV1.0%の著明な低下を認め,術中・術後の抜管困難や,術後無気肺など合併症発現のリスクが高い為,現況では全身麻酔下での手術は困難と判断された.その為,呼吸機能改善目的に術前リハ開始となった.プログラムとして,インスピレックス,呼気筋力増強練習,呼吸法指導,深呼吸を同調させた体幹下肢のレジスタンストレーニング,自転車エルゴメーターにて運動負荷をVO2maxの50%に設定しての15分の訓練を,手術まで約3週間計20回の介入,ホームプログラムの指導を行った.術直前には,術創部を押さえての強制呼気,咳嗽練習を行った.薬物療法は,チオトロピウム臭化物を3週間服用された.理学療法の術前評価は,リハビリ開始前と手術前に,高機能肺機能検査CHEST社製CHESTAC33を使用し,FVC,FEV1.0 ,FEV1.0%を評価した.運動耐容能は,6分間歩行距離(以下6MWD)を用い評価した. 【説明と同意】 本発表の内容を詳細に本人に説明し同意を得た. 【結果】 術前リハ前→手術前(19日後)として以下に結果を提示する.呼吸機能FVC:1.40l→1.34l.FEV1.0%:37.86%→41.79%.運動耐容能6MWD:2分50秒140mにてSPO2 90% Pulse110bpm,Borg9(下肢疲労にて中止時間:距離)→6分完歩385m,SPO2 85%Pulse123bpm,Borg4となった.呼吸パターン:上部胸式,安静時呼吸数(以下RR)18回/分→胸腹式(上部胸郭>腹部)RR16回.術前リハ開始後20日目に全身麻酔下での幽門部摘出術が施行された.手術室にて人工呼吸器より離脱し,ICU管理となり,1病日より術後リハ開始,酸素投与量は2L.3病日には酸素療法終了となり,23病日に退院となった. 【考察】 本症例は,GOLDの分類_III_期,Hugh-Jones分類_III_,重症COPD患者であった,術後十分な肺活量を得る事が出来ないことや初期努力呼出力が弱い事により,換気能の低下や咳嗽力の低下が起こり,人工呼吸器からの離脱困難や,肺炎,無気肺を生じる可能性があった.また,横隔膜直下の術侵襲による,呼吸不全を併発する事も予測された.先行研究から検討すると,坂本らや井上らはGOLDの分類_III_期,Hugh-Jones分類_III_以上では,術後人工呼吸器からの離脱困難となる可能性があるとしている.Wongらは,COPD患者の術後合併症発症率は37%と報告している.本症例は,FEV1.0%は初期には37.86%であり,当院外科・麻酔科において現況による手術は困難である判断され,術前リハによる介入効果が認められた際には手術適用を考慮すると,なった.我々は,本症例に対し,FEV1.0%と運動耐容能の改善を目的とした術前リハのプログラムを施行した.Loannisらは,週3回12週のエルゴメーターと,トレッドミルによる運動負荷訓練を10分毎に休憩を挟み60分行うことにより,FEV1.0,FEV1.0%が有意に改善すると報告しているので,当院においても同様に術前リハを行った.その結果,術前介入3週間後には,FEV1.0%が約4%.1秒量に関しては10%,6MDは90mの改善を認めた.FEV1.0 の向上を認めた要因としては,運動負荷を十分に掛ける事によって,運動中の換気量が増加し,振幅幅のある吸気・呼気を繰り返すことによる分時換気量の増加が,呼気筋収縮力を向上させ,内肋間筋,腹筋の筋収縮能力が向上したものと考える.また,呼吸数が減少したことからも考えられる通り,深くゆっくりとした呼吸法の指導により,気道の虚脱を防止しつつ気流流量を増加させると共に,呼気筋の収縮向上により,呼出能力を改善させた事が考えられる.運動耐容能向上要因は,エルゴメーターでの15分の負荷トレーニング,また,下肢求心性の筋力増強によって,運動耐容能を向上させることが出来た.結果,術前介入によって得られたFEV1.0%の41.79%,運動耐用能向上を考慮し,執刀医及び麻酔医による,手術時間・麻酔時間・In-Outバランスが詳細に検討され,手術が可能と判断された.また,人工呼吸器も早期離脱することに至った.呼吸器疾患合併症例において,FEV1.0 %に着目した術前リハを行うことにより,手術困難症例でも手術可能となり,術前リハ介入をする事の効果が示唆された。 【理学療法研究としての意義】 呼吸機能低下が著しい症例に対し術前リハを行うことにより,呼吸機能障害合併症例での上腹部術が,全身麻酔下で行える事となった.これは,理学療法が術前ケアに有用であるという事が示唆された.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680651626624
  • NII論文ID
    130007007636
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2011.0.97.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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