末梢循環障害による両側下腿切断者の生活実態調査

  • 中塚 彩子
    兵庫県立総合リハビリテーションセンター
  • 高瀬 泉
    兵庫県立総合リハビリテーションセンター
  • 大籔 弘子
    兵庫県立西播磨総合リハビリテーションセンター
  • 東 祐二
    兵庫県立総合リハビリテーションセンター
  • 手塚 勇輔
    兵庫県立総合リハビリテーションセンター
  • 陳 隆明
    兵庫県立総合リハビリテーションセンター

説明

【目的】 近年、末梢循環障害(以下PAD)による下肢切断者の割合は増加傾向にある。Evskovらによると一側下肢切断に至った場合、4年以内に反対側下肢を切断するリスクは44.3%にのぼるとの報告があり、今後は両側切断者の増加も懸念される。PADによる下肢切断者は高齢であることに加え、さまざまな併存疾患を有する場合が多く、切断以前より身体機能の低下を招いていることも多い。そのため両側下肢切断者では在宅での日常生活動作(以下ADL)においては義足歩行以外にも考慮すべき点が多いと考えられる。しかし実際の在宅生活を調査した報告は少ない。今回、PADによる両側下腿切断者の在宅生活における義足使用状況やADLを把握するために訪問調査を行ったので報告する。<BR> 【方法】 対象は当院での義足装着練習を終了した両側下腿切断者3名である。退院後に自宅を訪問し、義足使用状況、屋内移動、屋外移動、排泄動作、入浴動作について調査した。なお、今回の発表に際し調査の趣旨と目的を説明し同意を得た。<BR> 【結果および考察】 症例1は62歳、男性。4年前の一側切断後は歩行補助具無しでの義足歩行を獲得し、独居で生活していた。両側切断後、屋外移動は二本杖歩行となるが頻繁に外出している。屋内移動は主に四つ這いであり、家事動作時の椅子の利用やトイレへの移乗はプッシュアップ動作にて行っている。このように上下方向のプッシュアップ動作が可能であることにより、一側切断後と同様の生活スタイルとなっている。<BR> 本症例は年齢も比較的若く、バランスや筋力など身体機能が良好であることが、両側切断後も同じ動作方法を継続できている大きな要因と考えられた。今後、加齢による身体機能や動作能力の変化に応じて屋内移動方法の変更や更なる環境調整など生活スタイルの再考が必要と考えられるため、継続的な地域でのフォローアップが重要であると考える。<BR> 症例2は77歳、男性。2年前の一側切断後に杖を使用した義足歩行を獲得し在宅生活を送っていた。その頃より屋内移動は四つ這いや座位移動が中心であった。両側切断後も屋内移動方法には大きな変化は無い。屋外移動は義足歩行時に歩行車が必要となったものの、トイレと浴室が屋外にあるため日中は頻回に歩行している。夜間の排泄は上がり框の高い日本家屋の特徴を活かして土間にポータブルトイレを設置し、座位移動にて利用している。<BR> 本症例においては一側切断後の義足歩行能力と典型的な日本家屋である住環境が、両側切断後も各動作方法を大きく変更することなく生活を可能にしている要因であると考えられた。<BR> 症例3は68歳、男性。同時に両側切断となった。義足の使用は屋内移動と、余暇活動としての屋外での庭仕事の際であり、装着時間は短い。屋外移動は車いす、屋内移動は歩行器を使用した義足歩行と義足非装着での車いす移動を併用している。義足非装着時の車いすとベッドやトイレ間の移乗は手すりや柵などを使用して自立している。入浴方法は車いすから床へ降り、浴室内を座位移動してのシャワー浴である。<BR> 本症例は両側同時切断であり、切断前から身体機能の低下もみられ歩行能力は低い。しかし歩行器を導入し義足歩行の機会を短時間ではあるが確保することで、身体機能維持やQOLの向上に繋がっていると考えられる。また車いすからベッド、トイレへの水平面での移動は可能であるが、上下方向へのプッシュアップ動作は困難であるため、車いすから床への昇降動作では高さを調整する工夫がされていた。義足歩行能力や動作能力の維持を考慮した屋内移動方法や環境調整が検討されており、義足が身体機能維持や余暇活動に有効に使用されている症例であると考えられる。<BR> 3症例とも両側切断後のADLは切断前の身体機能や、義足歩行能力、住環境に大きく影響を受けていた。よって義足の使用目的や頻度、義足非装着時の各動作の検討には、身体機能維持も考慮しながら、実際の住環境を想定した上での動作評価および訓練を入院中より実施していくことが重要であると考えられる。またADLにおいて四つ這いや膝立ちを多用しているため、膝関節の温存は義足歩行獲得の成功率を向上させるのみならず、ADLにおいてもその重要性は高い。そのため更なる高位切断を防ぐための断端管理や原疾患のコントロールについて切断者、家族への教育的介入も重要であると考えられる。今後は加齢による身体機能の変化に対応するために、地域関連職種との連携や長期的なフォローアップ体制の確立も必要であると考える。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680651638016
  • NII論文ID
    130007007648
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2011.0.64.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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