両脚立位から片脚立位への動作における内腹斜筋と腰背筋群の筋活動パターンの検討

Description

【目的】<BR>  脳血管障害片麻痺患者の歩行では、非麻痺側内腹斜筋の筋緊張低下により、非麻痺側下肢への体重移動が困難となり、麻痺側下肢の遊脚時に麻痺側腰背筋が過剰に活動し、分回し歩行を呈することが多い。このような場合、我々は非麻痺側への体重移動を改善する目的で、非麻痺側への側方体重移動練習や非麻痺側下肢支持での片脚立位練習を行う中で、非麻痺側内腹斜筋の筋緊張を促している。これらの運動療法により非麻痺側への体重移動が円滑となり分回し歩行が改善する症例がいる一方、麻痺側内腹斜筋の筋緊張低下に伴い、麻痺側下肢の遊脚が改善しない症例を経験する。これらの臨床経験から、我々は第50回近畿理学療法学術大会にて、両脚立位から片脚立位における両側内腹斜筋の筋活動パターンについて、健常者を対象に筋電図学的に検討した。そこで今回は、内腹斜筋に加え腰背筋群の筋活動パターンを先行研究と同様の運動課題にて検討した。<BR> 【方法】<BR>  対象は、整形外科学的、神経学的に問題のない健常者11名、年齢24.4±2.9歳とした。まず、被験者の両下肢を重心計のプレート上におき両脚立位をとらせた。運動課題は、開始肢位を両脚立位とし、1秒間で遊脚側股関節を屈曲して片脚立位となり、その姿勢を1秒間保持することとした。運動課題中の規定は、遊脚側股関節の屈曲角度を30度に設定し、下腿は下垂させた。また、両肩峰と骨盤を水平位に保持させ、体幹・骨盤の前後傾や回旋が起こらないようにした。下肢の遊脚時は踵、足趾の順で離地させた。被験者には上記の運動課題を円滑に遂行できるよう測定前に練習させた。測定項目は、両脚立位から片脚立位における足底圧中心位置(以下、COP)と筋電図とした。筋電図の測定筋は両側内腹斜筋、両側腰背筋群とした。また、下肢遊脚時の踵離地及び足尖離地の時期を確認する目的でフットスイッチを遊脚側踵部と母趾球に設置した。分析方法は、まずCOP軌跡の時間的変化とフットスイッチの反応時期から、運動課題を4つの時期に分類した。分類は、開始肢位を両脚立位期、立脚側下肢への側方体重移動開始から踵離地直前までを側方体重移動期、踵離地から足尖離地までを踵離地期、片脚立位を保持する時期を片脚立位期とそれぞれ定義した。その後、分類した時期別に各被験者の筋電図波形から導出筋の筋活動パターンを分析した。<BR> 【説明と同意】<BR>  各被験者に事前に研究の趣旨を充分に説明し同意を得た。<BR> 【結果】<BR>  両側内腹斜筋は側方体重移動期において、COPの支持側変位に伴い筋活動が増加傾向を示した。遊脚側腰背筋群の筋活動は側方体重移動期に筋活動を開始し、踵離地期以降は増加傾向を認めた。支持側腰背筋は両脚立位期から踵離地期において筋活動の変化を認めず、片脚立位期に筋活動が増加傾向を認めた。<BR> 【考察】<BR>  両側内腹斜筋は、側方体重移動期において支持側下肢への荷重量増大に伴って生じる仙腸関節の剪断力に対し、骨盤を安定させる目的で活動したと考えられる。また、本運動課題では側方体重移動期から骨盤が遊脚側へ傾斜することが考えられ、遊脚側内腹斜筋は骨盤を水平位に保持するために活動したと考える。遊脚側腰背筋群の筋活動は、側方体重移動期に増加傾向を認めた。渡邊らは、両脚立位から一側下肢へ体重を移動すると、遊脚側腰背筋群は骨盤を水平位に保持するために筋活動が増加傾向を示したと報告している。本研究においても遊脚側腰背筋群は側方体重移動期から筋活動が増加する傾向を認め、骨盤の水平位保持に関与したと考える。また踵離地期以降は骨盤が遊脚側へ傾斜する力が増大することが予測され、遊脚側腰背筋群は積極的に骨盤の挙上に関与したため、筋活動が増加傾向を示したと考えられる。渡邊らは、両脚立位から一側下肢へ体重を移動すると、支持側腰背筋群は体重移動量を増加しても直立位と比較して筋活動は変化を認めなかったと報告している。本研究においても、両脚立位期から踵離地期においては支持側腰背筋群の筋活動に変化がなく、先行研究と同様の結果であった。片脚立位期に支持側腰背筋群の筋活動が増加傾向を示したことについては、片脚立位に伴う体幹の遊脚側への傾斜を体幹同側側屈作用にて制動し、体幹の垂直位保持に関与したためだと考える。<BR> 【理学療法研究としての意義】<BR>  臨床において、麻痺側内腹斜筋の筋緊張低下により分回し歩行を呈する脳血管障害片麻痺患者に対し、運動療法の一つとして本研究の運動課題を用いる場合は、両側内腹斜筋は側方体重移動期、遊脚側腰背筋群は踵離地期以降、支持側腰背筋群は片脚立位期に筋活動が増加傾向を示すといった筋活動パターンを獲得する目的で実施する必要があると考えられる。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680651649280
  • NII Article ID
    130007007654
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2011.0.69.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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