副神経麻痺・長胸神経麻痺による翼状肩甲症例の肩関節屈曲動作における鎖骨・肩甲骨動態解析

説明

【はじめに】  翼状肩甲を呈する原因の中に副神経麻痺・長胸神経麻痺による僧帽筋麻痺・前鋸筋麻痺が知られている。今回、僧帽筋麻痺・前鋸筋麻痺を呈した2症例の肩関節屈曲動作に着目し、鎖骨・肩甲骨の動態解析を行った結果、一見の知見を得たので報告する。なお、報告にあたり本症例には説明の上、同意を得た。 【症例紹介】  症例A: 69歳男性。約15_kg_のリュックサックを5時間程背負ったことが要因となった右長胸神経麻痺。自動屈曲・外転120°。症例B: 65歳男性。頸部郭清術施行後の医原性による右副神経麻痺。自動屈曲130°、自動外転80°。 【方法】  鎖骨・肩甲骨の動態解析には我々が考案した座標移動分析法を用いて健常群(平均年齢31.2±6.2歳)と比較した。本法は上肢下垂位から最大屈曲角度までの30°毎のレントゲン画像を用いて胸鎖関節を支点として肩鎖関節、肩甲棘内側端、肩甲骨下角の移動方向(X、Y軸方向)、移動量を評価する方法である。X軸は水平線とし棘突起に近づく方向(内側方向:+)と棘突起から離れる方向(外側方向:-)に規定した。Y軸は垂直線とし、頭側方向(+)と尾側方向(-)に規定した。また、肩甲骨上方回旋角度として肩甲棘の傾斜角度を測定した。なお、単純X線撮影は医師の立ち会いのもと、角度設定は理学療法士が、撮影は放射線技師がおこなった。 【結果】  肩甲骨上方回旋角度は屈曲120°において健常群35.86°±5.76°、症例A 38.0°、症例B50°であった。座標移動分析法より、症例Aは健常群と比較して、屈曲30°より全ての骨指標に頭側方向(+)への移動が著明に認められた。屈曲90°以降、肩甲棘内側端の著明な内側方向(+)への移動を認めた。一方、肩甲骨下角の外側方向(-)への移動が著明に減少していた。症例Bは健常群と比較して、肩鎖関節の内側方向(+)への移動が著明に減少していたが頭側方向(+)への移動は同程度の移動量を認めた。一方、肩甲棘内側端の外側方向(-)への移動量が著明に認められた。肩甲骨下角の外側(-)尾側(-)方向への移動量は健常群と同程度であった。 【考察】  一般的に前鋸筋麻痺の場合は屈曲90°以上の上肢挙上が困難とされている。症例Aにおいては自動屈曲120°の可動域を有していた。本来、肩甲骨下角の移動を伴わず肩甲骨を上方回旋させることは困難であるが、症例Aは屈曲早期より肩甲帯を挙上させ、肩甲棘内側端を内側方向へと移動させて肩甲骨を内方へと傾斜させることで肩甲骨の上方回旋を構築していたと考えた。一方、僧帽筋麻痺の場合、特に外転運動に困難をきたすとされている。健常者においては上肢挙上に伴い鎖骨には上方傾斜と後退運動が生じる。症例Bでは鎖骨運動に関与する僧帽筋が全線維機能不全に陥っているにも関わらず肩鎖関節の頭側移動を認めた。これは僧帽筋上部線維と協同筋である肩甲挙筋が関与していると考えた。しかし、肩甲骨の上方回旋角度は獲得しつつも僧帽筋中部・下部線維による肩甲骨(肩鎖関節)を介した鎖骨後退運動は困難であったことから肩鎖関節の内側方向への移動が減少し、肩甲棘内側端が著明に外側方向へと移動した結果、屈曲可動域にも制限が生じたと考えられた。 【まとめ】  代償メカニズムを客観的に理解することは器質的障害を患った症例への可動域拡大や上肢のADL向上につながると考える。本研究でおこなった動態解析は末梢神経麻痺の回復過程における評価の一指標にもなると考える。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680653205760
  • NII論文ID
    130007007991
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2010.0.30.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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