室内照度が高齢者の立位安定性に及ぼす影響

書誌事項

タイトル別名
  • -転倒予防の観点から-

説明

【はじめに】 超高齢化社会の入り口に差し掛かっている我が国において、転倒予防への取り組みは重要である。転倒の要因は服薬状況や運動・感覚等の身体要素等の内的要因、住環境等の環境要因を含む外的要因の二つに分類され、これらの要因が複合して転倒が生じる。過去の報告では高齢者の転倒は夜間の頻度が多く、また室内照度を暗くするとバランスが低下すると言われている。しかし暗所から照度が変化した際のバランスへの影響を報告したものは見られない。今回、高齢者において閉眼から開眼した際に室内の照度の違いが立位安定性に及ぼす影響と適切な照度を評価・検討したので報告する。 【方法】 対象は、研究の主旨を説明し、同意を得た高齢者48名(男性25名・女性23名 平均年齢75.9歳)とした。デジタル照度計(東京光電社製)にて室内の照度を1000、10、100、400、1000ルクスの順に調整し、各照度における開眼での静止時立位重心動揺を重心動揺計(アニマ社製グラビコーダGS‐31)にて計測した。一般的にJIS照度基準での実生活内で動作を行う際に使用される推奨照度は、部屋全体を明るくする全般照明では寝室・居間・廊下で10~75ルクス、トイレが50~100ルクスで作業面などの必要箇所だけを明るくする作業照明では団欒は150~300ルクス、読書や化粧は500~1000ルクス程度必要とされている。最初の1000ルクスの計測後は、各測定間にアイマスクを用い7分間遮光した。遮光開始6分30秒時点で足部内側を接触させた状態で立位をとり、7分時点でアイマスクを除去し、直後30秒間の静止時立位重心動揺を測定した。重心動揺検査には種々のパラメータがあるが、我々は外周面積を評価に用いた。外周面積は軌跡の外周に囲まれた面積で、動揺の程度を表す。最初に測定した1000ルクスのデータをNormal群(以下N群)とし、他の照度との比較に用いた。統計処理はFriedman検定にて検定後、Steelの方法にて多重比較検定を行った。 【結果】 各照度の外周面積平均値は、N群が3.569375 cm2、10ルクスが4.256458cm2、100ルクスが4.312708 cm2、400ルクスが4.519375 cm2、1000ルクスが4.520417 cm2であった。N群と各照度群における外周面積値の比較では、1000ルクスの群において有意に高値を示したが、10ルクス、100ルクス、400ルクスでは有意な差は認められなかった。 【考察】 今回の調査結果では10・100・400ルクスの照度では外周面積に大きな差は認められなかった。これは照明にさらされることで感じるまばゆさであるグレアの程度が低かったためと考えられる。高齢者はグレアを生じやすいとされるが、加齢に起因する瞳孔径の縮小による入射光量の制限と水晶体の黄変化による透化率低下が、網膜に達する光量を減衰させるとも報告されている。このため上記の照度よりも実際は暗く感じ、グレアが生じる程のまばゆさとはならず重心動揺には影響しなかったと考えられた。しかし1000ルクスという明るい環境下では外周面積に有意な差を認めた。この結果からは、高齢者において高い照度ではバランス能力が低下するが、10・100・400ルクス程度の照度であればバランス能力に及ぼす影響としては少ないことが示唆された。転倒は環境、設備、履き物等といった種々の外的要因と筋力低下、バランス低下、視力低下、認知障害、起立性低血圧、薬物の服用状況といった内的要因の双方が絡み合い、起こるものとされている。今回の調査は静的立位での重心動揺測定であり、また検査時は覚醒した状態であり睡眠時から覚醒した直後の状態とは異なる。したがって、この結果が必ずしも夜間の転倒発生と直接関連付けられるものではないが、照度の変化は身体能力の低下など他の内的要因にリスクを有している高齢者にとって転倒発生の可能性を増大させる要因となり得る。今後は、今回検討していない400から1000ルクス間の照度での検討を行う予定である。

収録刊行物

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680653256960
  • NII論文ID
    130007008033
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2010.0.61.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ