雌の多回交尾と性的対立

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  • female multiple mating and sexual conflict

抄録

雌が複数の雄と交尾し、その一腹卵が複数の雄由来の精子によって受精される可能性があるとき、性淘汰は交尾後も精子競争とcryptic female choiceの形で継続しているといえる。今日sexually-selected sperm (SSS)仮説と総称されている一連のモデル(Curtsinger 1991によるsexy sperm仮説や、Yasui 1997によるgood sperm仮説など)は、精子競争と雌による選好性の協調的な(すなわち雄にとっても雌にとっても有利になるような)共進化を理論的に導き出そうとするものであった。しかしながら雌が多回交尾から直接的・間接的利益を得ているかどうかは必ずしも明らかでなく、雌の利益を検出する試みはしばしば失敗している。雌雄の協調路線で雄と雌の繁殖戦略を考えることに無理があるなら、いっそ雌雄は対立したまま非平衡で共進化し続けるものだと考えてはどうだろう。雄はたとえ雌にとって有害であっても自己の適応度を高めるような性質を進化させ、雌はそれに対する対抗手段を進化させる拮抗的共進化のシナリオに基づけば、雌が多回交尾から何らの利益を得ていなくても、それは現時点で雄が雌を出し抜いて優位に立っている1つの時間断面を我々が観察しているに過ぎないのかもしれないのだ。SSS仮説は雄の精子競争能力と雌の交尾頻度が共進化することを仮定しているが、これらの形質を支配する遺伝子が雄と雌で異なったfitness payoffをもたらすのだとしたら何が起こるのだろう。たとえば雄の受精効率を高める遺伝子が雌に有害な影響(雌の再交尾を遅らせる射精液中の化学物質が雌の寿命を減少させるなど)を与えるならば、その遺伝子は雄の体内では正の淘汰を、雌の体内では負の淘汰を受けることになる。このような遺伝子は異性間の拮抗(sexual antagonism)をもたらし、雌雄の繁殖戦略における進化的軍拡競走を引き起こす。この講演では雌雄の対立の視点に基づいて、雄間の精子競争と雌の多回交尾の進化の問題にどのような新たな展開が予想されるかを論じたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680666497536
  • NII論文ID
    130007010866
  • DOI
    10.14848/esj.esj52.0.62.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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