ライトレールを先行事業とした富山市のコンパクトシティ政策

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  • Compact City Policy and the Light Rail in Toyama-City

抄録

<BR>1.はじめに<BR>  日本初の本格的LRTといわれる富山ライトレールが開業した富山市においてコンパクトシティを理念とするまちづくりが進められつつある。本稿では人口、従業者、駅勢圏に着目した交通地域区分を用いて、地方都市のコンパクトシティ度を算出し、富山市の都市構造の特性と公共交通との関連を明らかにする。そのうえで富山ライトレールを先行事業とした富山市のコンパクトシティ政策の現況について述べる。<BR> <BR> 2.ライトレールの経緯<BR>  北陸新幹線開業の際に富山駅が高架化されるのに伴い、利用客の少ないJR富山港線の取り扱いについて、廃止してバスに代替、高架化して存続、路面電車化して富山駅北口に接続の3案が検討された結果、路面電車化(ライトレール化)することが決定された。設立にあたっては国の支援制度を活用して路線基盤費用を富山市が負担し、会社は運営だけを行う方式がとられ、経営負担が軽減されることとなった。ライトレールはコンパクトシティを理念とするまちづくりを進めるための先行事業として位置付けられようになり、北陸線高架化後には市内に現存する富山地方鉄道市内線との接続などが考慮されている。<BR>  2006年4月29日に開業した富山ライトレールは100%低床車の導入、日中15分毎の運行、均一運賃200円(日中と土日祝日は100円)など、サービス水準が改善された。開業前には1日平均乗降客数が3400人(JR時代は1710人)で、年間の支出超過約2~3千万円と想定されていたが、予想を大きく上回る4901人の乗降客数となった。これに加えて関連グッズの売上も好調であり、富山ライトレールは、予想に反して約4500万円の収入超過となった。<BR> <BR> 3.都市構造の特性<BR>  富山市はDID人口密度が4117.1人/km2と低く、分散した都市形態となっている。そのため、全トリップに占める自動車利用者の割合は72.2%と高い(平成11年PT調査)。しかしながら、中心部を運行する富山地方鉄道市内線の利用者も一定の水準を保ち(平成16年度の一日平均乗降客数は10066人)、経営的にも健闘している。その要因をコンパクトシティ度でみると、富山市における駅勢圏内人口比率は21.0%に達し、鉄道通勤利用確率は7.6%に達する。全国の地方中心都市をクラスター分析によって抽出した15都市と比較した場合、富山市は高知市の14.6%には及ばないものの、長崎市や函館市と同水準である。すなわち、富山市は住宅地や就業地、学校、病院、商業地が駅周辺に多く分布しており、公共交通を利用しやすい都市構造であるといえる。<BR> <BR> 4.コンパクトシティ政策<BR>  富山市では当初からコンパクトシティ政策を進めていたわけではないが、富山港線の路面電車化を契機に、国土交通省から鉄道事業、道路事業の両面で支援を受け、中心市街地活性化基本計画が策定された。まちづくり三法の改正に伴う国のまちづくり重点支援地域として青森市とともに第1号認定を受けた。そこには、公共交通の利便性の向上(富山港線のLRT化と岩瀬浜のまちなみ整備、高山本線の増発、市内電車環状化等)、中心市街地活性化(総曲輪地区再開発と大型小売店の立地規制等)、まちなか居住の推進(住宅支援制度、高齢者住宅住み替え支援制度等)という3つの計画、27事業が盛り込まれることとなった。こうした一連の計画、事業に合わせる形で、コンパクトシティを理念とする都市計画マスタープランの策定が進められてきている。<BR>  青森市ではDID人口密度が6355.6人/km2と高く、インナー、ミッド、アウターと同心円型のコンパクトシティが目標とされている。一方、富山市では中心部でも高密ではないため、駅周辺に都市機能が比較的多いという特性を活かし、クラスター型のコンパクトシティが目標に掲げられている。その効果として、車を使用できない人の交通手段の確保、市街地拡散の防止による行政費用の低減、中心部の魅力を高めることによる都市全体の活力向上が挙げられている。<BR>  富山ライトレールの開業は市民に政策の意義を提示する先行事業となった。その一方、広域合併した市域全てで公共交通を整備することは困難を極める。例えば、高山本線の増発実験に伴いフィーダーバスやデマンドバスが運行されたが、1便あたりの利用者が1人にも満たない路線もみられた。すなわち、効果的な交通体系の構築のためには、交通需要に応じた施策を組み合わせる必要があり、また、一定の自家用車規制も伴わなければ効果を上げることが難しい。コンパクトシティの構築にあたっては公共交通網と土地利用の連携化を図り、公共交通に対する市民意識の変革を図る取り組みが必要となろう。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680668399104
  • NII論文ID
    130007013803
  • DOI
    10.14866/ajg.2007f.0.154.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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