インドの経済成長とMP州の一農村

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タイトル別名
  • Indian economic growth and the impact on a village, MP
  • Commodity chained farmers and unchained farmers in a village
  • 農村内部における商品連鎖への接続と非接続

抄録

<BR>1.はじめに<BR>  近年のインドの急速な経済成長は論を待たない。また,それにともなう都市と農村の格差についても多くが指摘している。しかしながら,都市部を中心としたインドの経済成長と取り残される農村という二項対立的な理解は決して正確ではないと考える。都市の経済成長は何らかのかたちで農村部にも影響を及ぼしていると考えるのが妥当ではないか。実際に大都市の消費の拡大,とくに農産物消費の変化はインドの農業生産にも少なからぬ影響を与えている。実際にインドでも大都市を中心にして青果物需要が増加し,それをまかなうためにインド各地の青果物産地と大消費地である都市とを結ぶ供給体系が構築されている(荒木,1999,2004,2005,)。本発表では,以上のような観点から,実際に大都市向けの出荷を行う地方の農村・農家調査を通して,遠隔の大都市向けの生鮮野菜出荷を行う農家の実態とそれにともなう農村の変化,問題点などを検討したい。<BR><BR> 2.遠隔地大都市への野菜出荷<BR>  事例対象農村はMP州インドール市郊外に位置するC村である。MP州は近年野菜産地として成長しており,インド全国的にみても,カリフラワーの一大産地である。また,タマネギやジャガイモ,ナスなどでも有力な産地であり,インドール市やボパール市は有力なタマネギやジャガイモの集荷地となっている。インドール市場では取り扱われるジャガイモの7割をムンバイへ,タマネギは6割がデリーや南インド方面へと送られるほか,ニンニクやカリフラワー等もデリーやその他の遠隔大消費地へと出荷されている。<BR>  C村はこうしたインドール市の郊外に立地し,近くにはピータンプル工業団地が開発されている。2006年及び2007年におこなった調査からは,少なからぬ農家がムンバイやアーメダバード,あるいはデリーに向けての野菜の出荷を行っていることが確認された。10年前の1996年に調査した時にはこうした農家は2件しか確認できなかったことに比べれば,確実にその数が増えている。なお,当村からこうした州外の大都市の市場に出荷される品目はジャガイモ,タマネギ,カリフラワー,ニンニクなどであった。<BR>  最も積極的にこうした経営をおこなっている農家は大都市市場の業者から市況情報を手に入れ,その価格に応じて自らが所有するトラックに野菜を積載し,数百キロの行程を運転を交替しつつ一気に走破し,市場へ搬入するという。しかしこうした経営を行えるのは自家用のトラックを持つ農家のみで,それ以外では多少の中間マージンを差し引かれて,大都市市場からの買い付け人に売りさばくという形態も多く見られた。<BR>  また,こうした農家は経営規模の上では決して大規模な農家ではなく,総じて中規模の自作農であった。一方,大規模農家の中にはこのような遠隔の市場への出荷を目指した野菜経営に転換せず,従来的な換金作物である大豆経営を続ける農家が認められたが,農機具や自家用車などの所有状況から判断する限り,積極的な野菜経営を行っている中規模農家の方が高い収益を得ていることがうかがえた。<BR>  その一方で,こうした野菜栽培は農業用水の使用量を増加させ,水資源の枯渇に対する懸念も少なからず提起されている。<BR><BR> 3.考察<BR> 本発表では新興の大都市向け長距離野菜出荷地域を取り上げて,農家がどのような環境のもとで長距離出荷を行っているのかをミクロレベルの農村調査を通じて検討した。これまで,多くがインドの経済成長にともなう都市と農村の格差についての言及を行ってきた。たしかにそれは事実ではあるが,単純に都市と農村を2項対立的にとらえるのは正しい把握ではない。経済成長の影響は農業生産を生業とするような農村部においても少なからず認められ,そこでは農村内部の格差を引き起こし始めているといえる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680668444160
  • NII論文ID
    130007013875
  • DOI
    10.14866/ajg.2007f.0.63.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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