航空写真を用いた山地湿原の面積変化の検出

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  • Detection of alpine moor area change by aerophotograph

抄録

<BR>はじめに<br>  日本で最も多雪であると奥利根・奥只見には積雪によって涵養されている湿原が多数散在している。これまで筆者らはこれらの湿原で植生の変化が生じ、面積が縮小している事を明らかにし(安田・沖津 2001;安田・大丸・沖津 2007)、積雪量の減少が原因ではないかと指摘している(安田・沖津 2006)。<br>  さて、奥利根・奥只見に多数散在しているような積雪涵養型湿原は、中部以北の日本海側山地の広い地域に分布している。この日本海側山地の広い地域では、積雪量の減少が認められている(気象庁 2001)。これより、日本海側山地の湿原でも積雪量の減少による植生変化と面積の縮小が起きていると推測される。しかし、これらの地域における湿原の植生変化や縮小に関する報告はほとんどない。<br>  そこで、筆者らは、山地湿原の植生変化の実態を明らかにするために、中部以北の各山地で撮影された航空写真について年代間比較を行い、山地湿原の面積の時間的変化とその特徴について検討した。<br> <br> 方法<BR>  検討対象は、中部、関東、東北の山地で比較的大きな面積を持つ湿原で、かつ、人為の影響をあまり受けていない地域である。これらの湿原が撮影されている航空写真で植生が判別できるものを使用した。<br>  航空写真はスキャナでデジタル化し、航空写真測量ソフトでオルソ化した。この際、精度を高めるためにコントロールポイントを航空写真1枚あたり4~7点設定し、現地でGPS機器にて精密測量を行って位置(緯度・経度・標高)の情報を取得して、それを元にオルソ化を行った。オルソ化された航空写真はGISソフトに取り込み、植生境界をプロットして湿原の面積を計算した。同様の操作を複数の年代の航空写真に対して行い、湿原面積の経年変化を検討した。なお、おおよその湿原で変化を明らかにできた期間は1960年代から2000年代の約40年間である。<br> <br> 結果<BR>  各山地の航空写真を検討した結果、湿原面積の変化の特徴は、湿原が位置している地域と、湿原の成立立地によって違いがあることが認められた。<br>  まず、地域毎の特徴では、白山や北アルプスなど中部以南の山地の湿原は面積の減少傾向が大きく、逆に東北北部の八甲田山や鳥海山などでは、減少はほとんど認められなかった。また、関東や東北南部では、太平洋側の地域で、湿原の減少傾向が強いことが認められた。<br>  次に、立地毎の特性に関しては、稜線部で雪田に涵養されて成立している湿原では縮小傾向が認められ、溶岩台地や谷底部に成立している湿原は縮小傾向が小さいことが明らかとなった。地域別の特徴がこのような結果となったのは、南方の地域ほど少雪傾向が強く、積雪期間も短縮される傾向にあるため、湿原が乾燥傾向にあるためではないかと考えられる。<br>  立地別の特徴は、涵養水の滞留状況が植生分布に関連していることから発生していると考えられる。すなわち、溶岩台地上に成立している湿原の植生変化が少ないのは、基盤となっている溶岩によって地下水が滞留するため、降水量の変化が発生しても影響を受けにくいためであると考えられる。また、谷底部に存在している湿原も涵養源となる流入水が上流域から供給されるため、降水量の変動の影響を受けにくいと考えられる。しかし、稜線部では湿原の涵養源は雪田や降水であるため、降水量の変化が湿原の水分状況に直接反映される。そのため、積雪量の減少などによって湿原が乾燥化し、植生変化が発生したと考えられる。<br> <br> <br> 引用文献<br> 気象庁 2001.『20世紀の日本の気候』気象庁.<br> 安田正次・沖津進 2001.上越山地平ヶ岳湿原の乾燥化に伴うハイマツ・チシマザサの侵入. 地理学評論74:709-719.<br> 安田正次・沖津進 2006.上越山地における積雪の長期変動. 地理学評論79;503-515.<br> 安田正次・大丸裕武・沖津進 オルソ化航空写真の年代間比較による山地湿原の植生変化の検出. 地理学評論80:842-856.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680668596992
  • NII論文ID
    130007014130
  • DOI
    10.14866/ajg.2008s.0.140.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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