中国農村部の土地利用変化をめぐる諸作用

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タイトル別名
  • Actions over Land Use Changes in Rural China
  • A Case Study in the Suburbs of Nanjing
  • 南京市郊外の事例から

抄録

<BR>1. 耕地保護政策の推進<BR>  食糧を生産する耕地を減少させないために、基本農田保護政策が広く中国の農業地帯で推進されるようになった。基本農田と指定された耕地については、国家重点建設プロジェクト以外の非農業建設が行われることを認めず、果樹園、養魚池、牧畜用地、あるいは林野や緑地帯などへの転用も許可しないという方針が強く打ち出された。土地利用計画を厳格に実行し、転用の許可にも厳格な基準を設け、土地収用の審査と補償を適正に行うことが定められた。土地に関する違法行為は厳しく取り締まられ、特に、違法に建設された工業団地(開発区)を整理することや、耕作条件が良好な平地の基本農田を退耕還林の範囲に入れないことが通達されている。<BR> <BR> 2.集落システムの合理化<BR>  基本農田の設定だけではなく、耕地面積を減少から増加へ転じさせるために、それぞれの鎮の建設計画において画期的な試みが始められている。まず、自然村レベルの集落の数を削減し、最終的にはすべてを廃村とし、いくつかの行政村の中心集落や鎮の中心市街地(鎮区)に農民を移転させる。同時に、そうした人口を収容すべく中心市街地に中層住宅を建設する。こうすることによって、農民たちがそれぞれの集落で個別に住宅を建設して、住宅用地が野放図に拡大することをなくすのである。さらに、それぞれの集落に分散している郷鎮企業などの非農業用地を集約して再配置する。土地の占有面積を抑制するのみならずインフラ整備のコストを抑制することも期待できる。これらの施策によって、耕地面積が減少することを防ぐことができるばかりか、増加さえも期待される。歴史的に形成されてきた中心市街地-行政村中心集落-自然村集落という階層的な集落システムを「合理化」し、あらゆる用途において土地を効率的に利用し、特に耕地面積を十分に確保しようとするのである。<BR> <BR> 3.耕地をめぐる利害関係<BR>  基本農田の設定や集落システムの合理化は、耕地に対する行政のコントロールを取り戻そうとするものである。人民公社が解体して農業生産責任制が導入されてから、土地の使用権はそれぞれの農民に委ねられ、経済発展が著しい沿海部の農村では、住宅用地の拡大を含む耕地の非農業用途への転用が無秩序に進んでいたのである。 <BR> ただし、農村の土地は村民委員会に従属する集団経済組織によって所有されている。農業用地の各農家への分配は、この組織によって担われている。村民委員会は集団所有地を郷鎮企業へ賃貸することにより大きな収入を得ている。農民が耕地を占有して家を建てる時には、まずは村民委員会の許可を得なければならない。このように農村の土地利用において村民委員会が果たす役割は重要である。国が推進する耕地保護政策とそれぞれの農民がとる経済行動とが食い違うだけではなく、村民委員会やそれらを管轄する郷鎮政府の幹部もまた異なった思惑から行動するため、農村の土地をめぐっては利害関係が錯綜することになる。<BR> <BR> 4.土地利用変化の展望<BR>  新たに施行された中華人民共和国農村土地請負法では、各農民の土地請負経営権という権利が改めて確認され、それと同時に、集団所有地を統括する集団経済組織の役割も確認されている。そこでは、農村内において、土地経営請負権の流動方法の規範化、すなわち土地経営請負権の譲渡や賃貸に入札や競売などの方法を導入することや、土地経営請負権に関して集団経済組織に株式制度を本格的に導入することなどが視野に入っている。<BR> <BR>  当日の発表では、以上のような土地利用をめぐる諸関係について、南京市郊外農村の事例を取り上げながら検討してゆく。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680668646016
  • NII論文ID
    130007014168
  • DOI
    10.14866/ajg.2007s.0.217.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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