神奈川県西部・酒匂川流域における水環境と住民意識,保全活動の連環

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タイトル別名
  • Interrelation of the water environment, the consciousness of the residents and the conservation activities for the river basin environment
  • a case study of Sakawa River in Kanagawa Prefecture, Japan

抄録

<BR>はじめに<BR>  日本における公害史上,深刻な水質汚濁のひとつである「水俣病」が1956年に公式に確認されてから50年の月日が経ち,法整備や設備対策が進んだ結果,公害問題は沈静化してきた.近年の環境問題においては,汚染源が一般生活の中に拡大してきており,汚染源の多様化,メカニズムの複雑化が進んでいる.事業系の施設や設備に対する特定の環境保全対策だけではなく,地域に合った環境保全を複合的に行うことが必要である.それには自然科学,人文科学,社会科学などを合わせた多角的な視点から,その地域環境の実態を明らかにすることが重要である.<BR>  本研究では,複雑化した環境問題が顕在している場として,河川とその流域を取り上げる.流域環境においては,自然から人間の生活までが複雑に混在しているため,水質問題をはじめ,生態系保全,治水と利水との関係など様々な問題が潜在している.水資源の様々な利用がなされている神奈川県西部の酒匂川流域において,水環境の現状や変化,流域住民の意識,環境保全活動の現状を明らかにした.そして,流域環境保全への提案を行うことを視野に入れて,複合的,空間的視点から酒匂川流域の環境を解明する.<BR> 結果と考察<BR> 1水環境の推移<BR> 40年間の水質データ,特にBOD(生物化学的酸素要求量)を用いて,水質解析を行った.年平均3.5mg/l前後であった40年前に比べ,法整備等により大幅に改善され,近年は1.5mg/l前後で安定している.近年には数値は小さくなったが,汚濁源が工業排水から主に生活排水に変わったこと,都市化が流域全体に広がったことから,流下による浄化作用が見られなくなるなど,水質の挙動が流域規模で複雑に変化するようになった.<BR> 2流域住民の河川環境に対する意識<BR> 流域住民を対象に5地点でアンケート調査を試みた結果,住民の意識や利用は各地点によって異なった.上流では,近接性の評価が高く,釣りや河原等の河川に近い利用が多い.一方,下流では,水害に対する意識が高く,河川敷のグラウンドや歩道等整備され河川から距離を感じるような利用が多い.その地点の河川環境が住民意識に影響を与えていることが示された.<BR> 3環境保全活動の現況<BR> 酒匂川において,企業が中心となり啓発活動を中心に活動している酒匂川水系保全協議会,水生生物調査を実施しているNPO法人神奈川県環境学習リーダー会など,様々な組織や団体が活動を推進している.しかし,各主体や各地域での活動は個々に行われており,流域として活動の連携はあまりとられていないことが明らかになった.<BR> 4三つの視点からの流域環境の把握<BR> 水質,住民意識,環境保全活動の三つの視点から酒匂川の流域環境を調査した結果,以下の点が明らかになった.<BR>  河川環境(水質)の変化は,ある一地点だけで生じるのではなく,流域でつながっている.河川の環境保全を考えるうえでは流域規模で環境変化を捉えることが重要である.<BR>  一方,酒匂川における流域住民の意識は居住地域を反映し,環境保全活動は主体ごとや地域ごとで独立して進められている.そのため,流域として一つにまとまった環境保全のスタンスが確立していない.<BR>  また,化学的な指標(BOD)では40年間で水質の改善が進んでいるが,住民の意識では40年前に比べて水質は悪化したと評価された.この差異の原因として,河川利用の少ない人ほど水質が悪化したと回答しており,生活が川から離れたことによる川に対するイメージの悪化が理由として考えられる.また,堰や河川敷の公園などの周囲の状態を含めて河川環境の良し悪しを判断するという,化学指標とは異なる視覚的な評価軸が存在するとも考えられる.指標によって環境の評価は異なり,ひとつの指標では環境の現況を捉えきれるものではないことが明らかになった.<BR> まとめ<BR>  現時点では酒匂川の水環境と住民の河川に対する意識は,水質の評価や空間スケールの点において合致してはいない.多岐にわたる流域環境の保全を行うには,時空間や環境の対象を幅広く捉え,水環境や住民意識に合わせて,保全活動を構築することが重要であるということ明らかになった.各地域,各主体の人々を連関させ,複数の視点から環境を把握し,環境と住民ともに満足させるような有機的なネットワークが形成されることが重要である.そして,流域住民が,保全活動の担い手となるような取り組みが必要である.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680668663808
  • NII論文ID
    130007014189
  • DOI
    10.14866/ajg.2008s.0.191.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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