公共交通の存続および活性化をめぐる地域社会の対応

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タイトル別名
  • The action of the regional society for continuance and regeneration of public transport service
  • A case study of the activity for continuance of the Manyosen Tram
  • 万葉線存続運動を事例として

抄録

1. 問題の所在わが国の交通事業全般に対する規制緩和の一環として,2000年に鉄道事業法が改正され,鉄軌道の需給調整規制が廃止された.この改正では鉄軌道事業からの撤退が許可制から届出制へと移行し,事業者の判断による鉄軌道路線の廃止が可能となり,各地で赤字路線の廃止や事業撤退が相次ぐ事態となった.これに対し,自動車交通と比較して輸送特性や環境面において有利とされる鉄軌道の存在意義を見直す動きも出始めており,鉄軌道の存廃・維持に関する議論が各地で活発化しつつある.本発表では,日本国内の地方鉄道・路面電車の活性化に向けた施策に関する全国的な動向を概観・考察する.また,近年の新たな動向といえる地域主体での鉄軌道路線の維持・活性化という視点から,富山県の路面電車「万葉線」の存続・活性化活動を事例とし,地方自治体と市民の対応,および連携の状況について分析を試みることを目的とする.2. 鉄軌道の現状と活性化の動向日本の公共交通は事業者による独立採算運営が基本である.しかし,いわゆる交通弱者に対する移動手段の維持という観点から,単に赤字という理由だけで公共交通の廃止を容認することは難しい.そのため,自らの経営基盤としての鉄道を活性化させ,地域住民の足としての機能を維持するため,事業者側による様々な経営努力が行われている.民間事業者の赤字鉄道路線は,主に不動産や乗合バスなどの関連事業の収益による内部補填で維持されてきた.また,沿線自治体の協力によるイベント開催や,周辺観光地との連携などにより,沿線地域とともに鉄道路線を活性化させる取り組みもみられる.一方,路面電車は,自動車交通の阻害要因になるとして,1960年代以降は各地で路線の撤去が相次いだ.しかし,1980年代頃から欧州等における新しい路面電車(LRT)を活用した市街地活性化の成功事例が注目されるようになり,1990年代以降は日本各地でも低床車両の導入や路線延伸などが実施されはじめている.こうした動向のほか,先に述べた規制緩和以降,地域の交通に対する地方自治体の役割が重要視されるとともに,利用者の立場である沿線住民側の対応が注目されはじめた.地方自治体と住民らが連携し,地域主体で鉄軌道の維持・活性化を図る動きがみられるようになったといえる.3. 万葉線存続問題と地域社会の対応 富山県の路面電車「万葉線」(高岡駅前・越ノ潟間12.8km)は,高岡市の中心市街地と,高岡市に隣接する射水市の旧・新湊市街地を結ぶ路線である.1966年に路線が縮小されてからは利用客の減少が続いていたが,1993年,国からの欠損補助打ち切り表明を契機に存廃問題が顕在化して以降,存続運動が展開された.当初は,存続に関する意思決定機関としての行政組織「万葉線対策協議会」(1980年発足)を主体とし,イベントを中心とした利用促進策が多く講じられた.1995年に当時の運営事業者が撤退を表明してからは,自治体・事業者間で存廃に関する協議が繰返し行われたが,鉄軌道資産の譲渡額をめぐり,調整は難航した.この間には,万葉線の支援組織「万葉線を愛する会」(1993年発足)や市民団体「RACDA高岡」(1998年発足)による,市民主体の活動が目立つようになる.「愛する会」ではツアー企画などの単発イベントの実施が中心であったが,「RACDA高岡」はまちづくり団体としての性格が強く,地域社会における万葉線の有用性を広く啓蒙する役割を果たした.こうした活動の展開により,存続運動は単なる利用客増加のための施策から,公共交通としての存在意義を重視する方向へと性格が変化したといえる.2000年には,「市民参加型」とする第三セクター会社の設立により,万葉線の存続が決定された.新会社の設立準備資金1億円は市民レベルでの募金によって賄われており,市民活動の積極的な展開が行政の決定に影響を与えたものとみられる.万葉線の事例では,市民側の対応が路線存続に果たした役割は大きく,その一方で自治体側は市民の意見を反映した施策を講じており,地域社会内での連携を見出すことができる.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680668792704
  • NII論文ID
    130007014381
  • DOI
    10.14866/ajg.2006s.0.245.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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