スーパー・サイエンス・ハイスクールにおける地理必修カリキュラム導入の効果と課題

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タイトル別名
  • Introduction of curriculum with required geography class in Super Science High-school

抄録

平成14年度から文部科学省は、科学技術・理科、数学教育を重点的に行う高等学校を「スーパー・サイエンス・ハイスクール」(以下、SSH)として指定し、理数系教育に関する教育課程の改善に資する研究開発を行っている。本発表では、SSH校の一つである島根県立益田高等学校(以下、益田高校)におけるSSH研究対象クラスの地理必修カリキュラムの導入の効果と課題について実践内容をもとに報告する。益田高校はSSH事業3年目の平成16年度研究指定校の一つである。1学年5クラスのうち理数科1クラスがおもなSSH研究対象クラスである。<BR> 益田高校には理科4科目のうち「地学」を担当する教員がいないので「地学」の授業が開設できない。しかし巨大地震などの自然災害や地球環境問題への生徒の興味・関心は高く、地形・気候・環境分野への学習要求は少なくない。一方、益田高校で従来から理系生徒は「地理」を選択する者が多く、加えて新学習指導要領では「地理B」の前半に地形、気候の内容があり、自然災害や環境問題に関する内容も増えた。これらのことから、SSH校のカリキュラム研究の一環として「地学」の補完的な意味も含め、2年次でSSH対象クラスの地歴選択科目を「地理B」全員必修とするカリキュラムを導入することになった。これにより以下の効果が認められた。<BR> まず2年次の「地理B」 において単元「地球科学」が追加された。「太陽系の惑星」「プレートテクトニクスとプリュームテクトニクス」「太陽放射と大気の大循環」などの「地学」的内容が加えられた。生徒の感想から「地理」「地学」相互の内容理解への相乗効果が見られる。次に、出張講義と体験実習への参加意欲が増した。SSH研究では、大学、研究機関との連携が重視されている。益田高校でも理数系分野の様々な出張講義や体験実習が実施されているが、「地学」的な内容でも生徒全員が「地理」必修のためある程度の知識があり理解が深められている。さらに益田高校独自の学校設定科目「サイエンス・プログラム」の中の「合科的な学習」と称する教科横断的な学習では、例えば、数学と地理の教員がGPSと歩測によるグラウンド面積の測定・計算の比較実験を行ったり、化学と地理の教員が火力発電所見学と石炭の燃焼によるNOx、SOxを検出・比較の実験を組み合わせた実践などに取り組んでいる。また、生徒による課題研究として「地理」に興味を持った数名が「GPS付き魚群探知機を使った蟠竜湖の湖底地形の開析」「島根県西部のリニアメント開析と活断層の密集性」などの研究に取り組んでいる。理科系諸分野(例えば日本物理学会など)ではジュニアセッションや高校生部門などが創設されており、地理学系の学会でも高校生の発表機会ができることが望まれる。<BR> 地理必修カリキュラム導入は、日本史を学習したい生徒から反発があり、教員間でも実験的カリキュラムであるという理解のもとでスタートしたので、SSH指定後は通常の選択制カリキュラムに戻る。しかし、1年経つと生徒からは「役に立つ」「今後も地理を学びたい」との感想が増えており、学ぶことで興味・関心が生まれることが分かる。地理歴史科目を均等に学習したのちさらに発展的な内容を選択できるような「学びの機会均等」があれば生徒・教員相互に好ましいことだと感じられる。また、地理必修化 やその他の実践は一般の高校現場では教育課程上の制約、経済的な制約のため実際の導入は難しい。しかし実物・本物にふれる重要性、学際的な内容の教材化など、SSHでの取り組みの効果が地理選択者減少の歯止めへのアピールになる事を期待する。<BR> 最後に、本報告実践は、「地学」教員がいないという現状から始まったが、「地理」「地学」は関連内容が多い。「アプローチが違う」とか「専門外である」というのは教える側の論理であり、学ぶ側にとっては似通った内容である。大学の研究室はすでにこれらを発展的に融合し名称・内容とも「地球科学」という方向へ進んでいる傾向が見受けられる。同じ「地球惑星科学連合」に所属している各学会で、相互の発展のため、また将来の研究者の育成のため、高校教科書の内容や高校生による研究発表、入試制度などにおいて垣根を取り払った抜本的な発想転換がなされることを願う。<BR>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680668821760
  • NII論文ID
    130007014435
  • DOI
    10.14866/ajg.2006s.0.49.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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