ネパールヒマラヤ,ヒンクー・ホングー谷における氷河湖決壊の可能性

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タイトル別名
  • Potentially dangerous glacial lakes in the Hinku and Hongu Valleys, Nepal Himalaya

抄録

1.はじめに<BR>  2009年10月~11月に,ネパールヒマラヤ,マカルー・バルン国立公園内に位置するヒンクー・ホンクー谷を調査する機会を得たので,その概要について報告する.<BR>  ヒマラヤ山脈では,氷河の融解に伴って末端に氷河湖が形成され,その決壊によって下流域に洪水被害がもたらされる事例が発生している.近年,氷河湖の成長が加速している可能性や,より多くの氷河湖が決壊する可能性が指摘され,洪水災害の危険度が増している可能性が危惧されるようになった.<BR>  カトマンズに本拠地を置く国際総合山岳開発センター(ICIMOD)がまとめた氷河湖のインベントリーによれば,ネパール国内の20の氷河湖で決壊の危険性があると指摘されており,そのうちの約半数は,東部の,サガルマータ国立公園ならびにマカルー・バルン国立公園内に分布している.前者は,多くのトレッカーが訪れるエベレスト街道沿いに分布するため,アプローチも比較的容易で多くの調査事例がある.これに対し後者は,アプローチの困難さ等から,前者に比べて調査事例は圧倒的に少ない.ICIMODのインベントリーにおいても,その数が多いにも関わらず現地確認調査はほとんど実施されていない.さらに危険度評価の基準も明示されていないため,その評価には疑問が残る.<BR>  そこで,ヒンクー・ホンクー谷に分布する氷河湖,特にICIMODのインベントリーで決壊する可能性が高いと評価されている氷河湖について,現状を把握すること,ならびに,将来の決壊の可能性について判断できる明確な根拠を得ることを目的として,予察的調査を行った.<BR><BR> 2.研究方法<BR>  今回の調査では,目視観察を基本として,過去に撮影された地上写真や衛星画像,作成年代の異なる地形図との比較を行い,氷河湖の現状と既存資料との相違について検討した.特に「リピート・フォト」と呼ばれる,定点を設けて同じ画角で撮影を行い,異なる時期に撮影された写真の比較により景観の経年変化を検討する手法を用いた.また,今後の室内作業やマッピングに供するためのGPS測位も併せて実施するとともに,チャムラン峰の南西麓に位置する氷河湖において,ゴムボートと測深器を用いた深度測定を行った.<BR><BR> 3.結果<BR>  地形図と比較する限り,民間会社が作成しているトレッキングマップ,ネパール政府測量部作成の官製地形図のいずれにも,地名・湖名・氷河名,積雪域や氷河分布域の記載等に,誤記や不一致が認められた.そもそも,ICIMODのインベントリーがどの地形図をより所にして作成されたのかも不明で,氷河湖を特定する際にも,無批判に地図の記載に頼ってしまうと思わぬ齟齬を生じてしまう可能性がある.決壊の危険度評価については,今後,より明確な判断基準を示していく必要があるが,今回の目視調査で,モレーンの比高や幅・湖面高度・湖面背後の斜面の状態などから判断したところ,危険と判定されている氷河湖の半数以上において,決壊の可能性が全くないか,差し迫った危険性はないものと判断できた.しかし,中には危険度が高いと思われるものもあり,今後の詳細な検討が必要である.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680668896512
  • NII論文ID
    130007014534
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.126.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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