愛媛県における移住促進事業とIターン者の「田舎暮らし」

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Characteristics of Country life for I turn migration and their promotion project in Ehime Prefecture
  • Geographical studies on the commodification of Japanese rural spaces, Part 14
  • 商品化する日本の農村空間に関する調査報告14

抄録

本研究は、愛媛県が展開する移住促進事業の特徴を踏まえ、当該事業を通して移住したIターン者の「語り」を分析することで、農村移住者の「田舎暮らし」の実態について明らかにすることを目的とする。 愛媛県では2006年から観光型移住促進事業を展開してきた。全日空と提携して「翼の王国」に特集記事を掲載し、全国規模の宣伝を展開すると同時に、移住モニターツアーを企画し、果物狩りや農家民宿に泊まり、市町村による説明会を開催した。このツアーでは、電力会社による「古民家再生プロジェクト」、いわゆるオール電化による古民家のリニューアル事例の見学があった点が特徴的である。これら県の移住促進事業では、各市町村にある移住相談窓口と連携しており、それぞれの市町村では滞在型農園施設を設立し、独自の支援制度を整備した。愛媛県における移住者の前住地は、その多くが大阪府や京都府、兵庫県などの近畿圏である。2007年9月から2009年11月までに、愛媛県および各市町村の移住相談窓口を通して移住した人数は117人であり、そのうち宇和島市31人、内子町30人、今治市(大三島)および上島町(岩城島)13人となっている。  本研究では、農村移住者の語りや体験談、ブログ等の記録を分析対象とした。プライバシーに関わるデータが多いため明確に提示できない点等課題はあるが、他者に向けられた個々人の経験から「田舎暮らし」の一端を読み取ることができるのではないかと考える。 1)「都会」との対比の中で築かれる「農村性」:移住先を探す際の意識をみると、彼らの抱く「農村性」とは、「都会」のイメージとの対比の中で強くイメージされている。例えば、広島市のイメージが強い広島県は彼らにとって「都会」であり、その対比の中で愛媛県は「田舎」である。さらに、愛媛県内でも、「繁華街」があり「高層の建物」が立ち並ぶ松山市は「まち」であり、南予地方や離島は「田舎」である。たとえ南予地方にであっても、「役場のまわりは都会」、「密集地はまち」という意識から、集落から離れた空き家を借りる移住者もみられる。このような対比は、農村部へ移住した後の生活を語る中でもみられ、都市部での生活を象徴する「満員の通勤電車」「夜遅い残業」という語りを否定的に用いることで、現在の「心の豊かさ」や「ゆとり」のある農村での生活を強調している。「LOHAS」や「エコ」という語りに表される「田舎暮らし」では、多くの移住者が「自らの手仕事」で生活を築き上げることに生きがいを感じており、ログハウスの建設、伝統工芸の工房開設などの事例がみられる。無機的な都会での生活とは対照的に、彼らにとって「有機的」で「自然と調和」した田舎暮らしには「手仕事」は欠かせない要素であるといえる。 2)移住成功者による「田舎暮らし」のイメージの形成:新規移住者に対して、田舎暮らしのイメージをより明瞭な形で意識させているのが、移住成功者の存在である。彼らの体験談は、愛媛県の移住サポートガイドに掲載され、全国移住フェアで配布されており、「贅沢な子育て環境」「セカンドステージは波の音が聞こえる家で」などキャッチフレーズとともに、移住を検討する多くの世代の共感を得ている。また移住成功者自身も、日々の生活を綴るブログやHPを開設して、そのライフスタイルを公開している。新規就農を志す移住者の中には、肥料や農薬を使わない自然農法の実践者など、移住成功者の農業に憧れて移住してくる者もみられる。テレビ番組や農村移住を紹介する雑誌に加え、このような成功者の日々の生活自体もまた、新規移住者の抱く「田舎暮らし」のイメージに強い影響を与えている。 上記の移住成功者らは理想的な田舎暮らしのイメージのみならず、地域住民と交流し、コミュニティ活動に参加することも重視しており、新規移住する者も積極的に活動に取り込んでいる。彼らは農業の新しい担い手であると同時に、集落行事に積極的に参加しており、特に離島や中山間地域のコミュニティを維持する上で重要な役割を果たしている。また、農村移住者は通信販売、企業への販路開拓、加工品の開発など、地域外へのPR能力、商品開発に優れており、移住までの経験を活かしながら地域の資源を掘り起こし新しいビジネスを展開している。彼らは「田舎暮らし」を実現する一方で、農村地域に「都会的な発想」やライフスタイルをもたらす存在でもある。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680668908032
  • NII論文ID
    130007014548
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.142.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ