ターター・モーターズ社の廉価小型車プロジェクトとベンダー・パーク

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書誌事項

タイトル別名
  • Low-priced compact car project of Tata Motors and its vendor park
  • Focusing on IIE Pantnagar, Uttarakhand in India
  • インド・ウッタラカンド州,IIEパントナガールを対象に

抄録

1.研究の背景と目的<BR>  2009年におけるインドの新車販売台数は226万台と前年比で14_%_増加した。これは中国の45_%_増には及ばないものの,先進国が伸び悩む世界の自動車市場の中では,成長性が高く将来的にも有望な市場として高い位置づけを獲得しつつあることを示す。インドの乗用車市場の特徴は,日系のマルチ・スズキ社,韓国系のヒュンダイ・モーター・インディア社,そして現地資本のターター・モーターズ社という必ずしも世界の主要自動車メーカーには該当しない企業がシェアの4分の3を持つことである。中でもターター・モーターズ社は「ナノ」に象徴される廉価車を2009年に投入し,輸出も企図するなど,新興国市場仕様の車両開発やそのマーケティングという点においてアグレッシブな展開をみせている。本発表ではターター・モーターズ社の廉価小型車プロジェクトに着目し,同社が現在それを製造しているウッタラカンド州の大規模工業団地・IIEパントナガールの工場に隣接して開発されたベンダー・パークの意義を確認するとともに,そこに立地する同社ベンダー企業の調査(2009年9月に実施)を通して立地企業の特性や生産の実際に接近することを目的とする。<BR><BR> 2.ターター・モーターズ社の廉価小型車プロジェクトと立地をめぐる問題<BR>  ナノはターター財閥総帥のラタン・ターター会長が2003年に表明した超低価格車構想に基づいて開発製造された排気量624cc・後輪駆動・最高速度105kmの4人乗り廉価小型車である。販売価格は標準モデルで11万ルピーと,最も廉価であったマルチ・スズキ社のマルチ800の半分以下である。インドは中国に次ぐ二輪車大国であり,その買い換え層を取り込む戦略である。ナノには徹底したコスト削減が図られており,装備の絞り込みのほか,車体はモノコック構造とフレーム構造を複合させることで強度を確保し軽量化に成功している。<BR>  ナノの専用組立工場は,当初はウェスト・ベンガル州シングールに建設されていたが,農地収用の手続きを巡る地元農民との衝突が政治問題化して完成間際であったにもかかわらず2008年10月に撤退に追い込まれ,同月に予定されていた発売も翌年の4月まで延期された。その後グジャラート州アフマダーバード近郊に新工場建設が発表されたが,稼働は2010年の予定である。その間のナノの生産を担う工場として選ばれたのが,軽トラックの生産を目的に建設されたウッタラカンド州・IIEパントナガールの組立工場である。<BR><BR> 3.IIEパントナガールとターター・ベンダー・パーク<BR>  ウッタラカンド州の工業団地開発戦略とそこにおけるIIEパントナガールの位置づけについては,すでに友澤(2008)において明らかにした。ここに立地する企業は州が推進する業種であれば,中央政府が山岳州に適用する各種の恩典を得ることができ,それが最大の立地誘因となっている。当地においてターター・モーターズ社は約1,300エーカーの用地を州工業開発公社から取得し,自社工場(約1,000エーカー)のみならず同社ベンダー向けの工業団地(ターター・ベンダー・パーク,約300エーカー)と併せて整備した。この組立工場とベンダーを一体化した立地は,部品をジャストインタイム方式で納入することで物流費の抑制を目指したものであり,撤退したシングールでも採用されるはずであった。この立地方式は,アフマダーバードに建設中の新工場にも踏襲されており,同社が追求する立地のあり方が示されているとみる。<BR><BR> 4.ベンダー・パーク立地企業<BR>  パントナガール工場は軽トラック(エース、マジック)の専用工場として建設されたものであり,1月あたりの生産量はナノ約3,000台を含めて約20,000台である。ベンダー・パークにはターター・モーターズ社から要請を受けた六十数社が進出(含む予定)している。これまで同社とは取引のなかったベンダーの進出もみられる。これらベンダーは同社から用地の提供をリースベースで受けており,リース料に加えて道路などのインフラ使用料を支払っている。立地工場は2007年以降に稼働を始めたばかりで,現状ではまだ本格操業の段階には入っていない。<BR>  調査企業の特性については発表当日に言及することとする。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680668964736
  • NII論文ID
    130007014661
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.173.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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