手描き地図の特性の数値化による分析

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タイトル別名
  • Analysis of sketch-maps by digitization

抄録

目的 人間が内的に保持している空間の表象,すなわち認知地図を外在化する方法として地図描画や方向推定,距離推定などがあるが,地理学や心理学でしばしば用いられてきたのは地図描画による方法である.この方法は手軽である上に,得られた手描き地図から読み取れる情報が豊富であるという利点を持っている.しかしながら,地図描画の対象とする地域の違いや手描き地図の分析指標の違いによって,地図描画を用いた研究間の知見の統合がなされにくいという問題点がある.また,地図描画を用いた研究の多くは,比較的小規模のサンプルを元にしており,手描き地図に用いる分析指標間の関係などの検討が十分に行われているとはいい難い.<br>そこで本研究では,大学生による3,000枚以上の「手描き地図」を対象とし,先行研究で用いられた分析指標を検討した上で新たな指標も加えて特性を分析し,手描き地図データ分析の方法論について総合的な考察を行なう.また,それに基づいて手描き地図ごとの特性を数値化し,手描き地図画像とともに収録したデータベースを作成し,資料として提供することを計画している.<br><br>「手描き地図」の描画 分析に用いた手描き地図は,中部大学で教養科目として実施されてきた講義「生活環境と人間」において,初回の講義時間の一部をさいてアンケート形式で描画させたものである.被験者数は同講義の2000年度から2005年度までの6年間の受講生,約3,000名以上となる。描画を行わせた場所は中部大学の講義室であるが,その場所は学期ごとに異なっており,とくに窓からの景色等への考慮も行っていない.なお中部大学は,名古屋大都市圏郊外に位置する春日井市東部に立地し(図),南約1kmにあるJR中央線神領駅などを最寄り駅としている.大学近辺に居住する学生(2割前後)のほか,多くの学生は愛知県外も含めた広範囲から,鉄道・バスや自家用車などを用いて通学している.<br>描画に用いた用紙(B6横)は,表面に学生の属性を,裏面に手描き地図を記入してもらうものである.表面では学生の学籍番号や名前のほか,性別,現在の居住形態(自宅・一人暮らし・寮・その他),出身地,そして通学方法(徒歩・バス・自家用車・鉄道・その他)などについて回答を求めている.裏面では,「現在住んでいる所から大学までの手描き地図」を,あらかじめ印刷された枠(約9cm×15cm)内に簡単に描くように求めた.学生には,地図の正確さは求めていないことが指示されている.<br> <br>分析の指標と結果のあらまし 地図描画を用いた先行研究や,今回得られた手描き地図を通覧して,次の11の分析指標を設け,一枚一枚の手描き地図の特性を分類・数値化した. (1)描画範囲:手描き地図に表現された空間的範囲の広がりを,学内のみから複数以上の市町村を含むまで,5つに分類した.(2)ランドマークの数:手描き地図で明確に示された建物や店といったランドマークの数を集計した.(3)エッジの数:手描き地図に名称入りで描かれた「河川」「県の輪郭」といったエッジの数を集計した.(4)パスの数:手描き地図に描かれた鉄道路線の数を集計した.(5)距離の表現:「なし」か「あり」かを集計した.(6)方向の表現:「なし」か「あり」か,そして「あり」の場合には「誤り」であるどうかを集計した.(7)手描き地図の向き:手描き地図の上方向がどの方角にあたるのかを8方位で集計した.(8)手描き地図上の自宅から見た大学の方向:手描き地図上で自宅から大学がどの方向に描かれているのかを8方位で集計した.(9)手描き地図上での自宅からの出発方向:手描き地図上で,自宅からの経路を描き始めている方向を,(8)と同様に8方位で集計した.(10)途中省略記号(例えば「?」):「なし」か「あり」かを集計した.(11)図の分割:紙面がL 字型の線などで区切られ,それぞれで別の領域の手描き地図が描かれているものを図の分割「あり」,そうでないものを「なし」と集計した.<br>こうした一連の分析指標に基づいて分類・数値化した手描き地図のデータ蓄積を進めている.その中で現時点では,例えば「手描き地図」に描いている空間的範囲が広範囲になればなるほど,ランドマークどうしの位置関係などにみる方向表現には誤りが増大するものの,一方で「上を北」として描く傾向は強まることなどが確認されている.<br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680669005696
  • NII論文ID
    130007014710
  • DOI
    10.14866/ajg.2006s.0.207.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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