持続可能な発展のための山村の地域政策

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書誌事項

タイトル別名
  • Regional policies for sustainable development of mountain village in Japan
  • Geographical studies on the commodification of Japanese rural spaces, Part 10
  • 商品化する日本の農村空間に関する調査報告(10)

抄録

戦後、日本の山村は大きく変貌し、今日、山間集落では著しい高齢化が進行し、集落の自然消滅が進行しつつある。過疎地域における高齢化率30%以上の地域分布をみると、1995年では地形的条件、歴史的条件、気候的条件などによってより条件不利な地域で先行して高齢化が進行していた。とりわけ、急傾斜面における畑作農業に依存せざるを得ない外帯型山村では、1980年以降の木材価格の下落以降、人口流出に歯止めが掛からず、先行高齢化地域となった。<br>  2005年になると、先行して高齢化の進行していた地域の周辺で高齢化が進んで、多くの過疎地域が過疎地域の高齢化率を超えて、高齢化が進行するようになった。今日の山村の高齢化は、高度経済成長時代以降も、山村に住み続けてきた人々の高齢化によってもたらされている。このまま行けば、かなりの数の山村集落が消滅し、人工林の荒廃、耕作放棄地の拡大が進んで、国土保全上の問題が生じる可能性もある。<br>  政府では、1965年に山村振興法、1969年に林業構造改善事業、1970年に過疎法、そして1987年にはリゾート法、2000年からは中山間地域等直接支払制度を導入して、山村の振興を図ってきたが、山村の経済的基盤の再構築は容易ではない。<br>  今日、山村の状況は厳しさを増しているが、地域の内発的な取り組み、行政主導による村づくりによって、一定の成果を収めている山間集落、地域も少なくない。山村の持続可能性を検討するためにも、一定の成果を収めている山間集落、山村の事例から、その原理を分析し、山村政策のヒントとすることも必要だと考えられる。<br>  京都府旧美山町(現南丹市)芦生は、由良川源流部に位置する山間集落である。<br> 芦生は1975年では27世帯96人を数えたが、1980年には19世帯75人に減少した。1990年では21世帯59人と世帯数は増加したものの、人口は減少の一途にあった。それが2000年には246世帯69人と世帯数と人口が増加し、2005年では24世帯67人を数えている。<br> 2007年11月現在における芦生の高齢化率は、旧美山町全体の高齢化率が37.65%であるのに対して、芦生は23.53%と、旧美山町内においては二番目に高齢化率の低い集落となっている。旧美山町内において、隔絶性が一段と高い芦生が高齢化せず、今日に至っているのは、「むらおこし」への取り組みがあったからにほかならない。<br>  芦生の耕地は、集落周辺に広がるが狭小なため自給用で、主たる生業は、広大な共有林を利用した製炭と山仕事であった。しかし、高度経済成長期におけるエネルギー革命によって製炭業は衰退し、挙家離村が始まった。芦生で挙家離村が進行する中、地域の中堅者らが中心となって、地区の将来について集落ぐるみで話し合いが行われた。その話し合いの中で注目されたのは、共有林内に自生する「なめこ」であった。なめこの栽培技術を修得して、1961年に6戸9人のグループがなめこの栽培出荷を開始し、1963年には「芦生なめこ生産組合」が設立された。それ以来、芦生では、なめこをはじめ、漬け物類の商品化を農協の支援を受けて展開した。2006年には、1961年の創業者の後継者3人とIターン者3人の出資によって有限会社となって、さらなる持続的発展に挑んでいる。<br>  一方、群馬県上野村は、県の南西部、利根川支流神流川の源流部に位置する山村で、現在は上野村と上信越自動車道下仁田ICとを最短で結ぶトンネルが開通して交通アクセスが飛躍的に改善されたが、長く隔絶性の高い山村であった。1965年から40年間にわたって上野村長を務めた黒澤丈夫氏は「急峻で狭小な地形では機械の導入や大規模な農業経営は困難で、容易に生産性を高めることはできない。農林業だけでは所得が不安定となってしまうため、第一次、第二次、第三次産業をバランスよく振興してくことが良い」と考えた。上野村では長年にわたって観光宿泊施設の建設、特産品の開発、地場産業の育成を図ってきた。その結果、今日では、1,400人余りの人口のおよそ10%がIターン者が占めるようになった。伝統的なお祭りは、Iターン者にも引き継がれつつあって、長年の山村振興への努力の結果が現れつつある。これらの事例は、住民による地域の「商品化」、行政による地域の「商品化」によって地域の持続性を形成してきたといえる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680669014784
  • NII論文ID
    130007014722
  • DOI
    10.14866/ajg.2009f.0.45.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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