チベット高気圧の張り出しが日本の天候に及ぼす影響

書誌事項

タイトル別名
  • An influence of the behavior of the Tibetan high on the weather in Japan

説明

<BR>1.はじめに<BR>  永野(2005)では武漢(中国)と札幌の200hPa高度場差をWS指数と定義し,7月においてWS指数の数値が大きくなると日本付近の30N-35N帯に前線が多く出現することを明らかにした.また,永野ほか(2008)では,東アジアにおける200hPa高度場の主成分分析を行い,EOF1は東アジアでのチベット高気圧の北偏の強弱,EOF2は日本付近での張り出し強化の卓越度を示しており,中国南部と北日本上空ではEOF1,EOF2ともに因子負荷量の符号が反転していた.そこで,本研究では因子負荷量の数値差がEOF1,EOF2ともに大きかったチェンチョウと札幌の200hPa高度場差を改めてCS指数と定義した.さらに,永野(2005)では30N-35N帯に出現する前線についてのみしか触れていないが,30N-35N帯以外にも出現する前線や,前線の出現に対応する日照時間および気温との関係も解析し,CS指数と日本の7月の天候との関係を総合的に明らかにした.<BR> <BR> 2.研究方法<BR>  気圧配置分類型(Yoshino and Yamakawa:1985)を用いて7月の前線出現状況について解析した.気圧配置分類型のうちIV型は日本付近に停滞前線が出現するパターンであり,IVa型(日本列島上に前線が停滞)とIVb型(太平洋岸に前線が停滞)に分類している.さらに,本研究ではIVa型,IVb型ともに細分化しIVa-n型(IVa型のうち前線が35N以北に存在),IVa-s型(IVa型のうち前線が35N以南に存在),IVb-n型(IVb型のうち前線が30N以北に存在),IVb-s型(IVb型のうち前線が30N以南に存在)の4パターンに再定義した.日照時間および気温は全ての気象官署のデータを用い,CS指数の基となるチェンチョウおよび札幌の200hPa高度場データはゾンデデータを使用した.<BR> <BR> 3.結果<BR>  図よりCS指数は最低で188(1994年),最高で421(1983年)である.CS指数が300を下回ると全国的に気温は高くなり330より大きいと全国的に気温は低くなっている(図).また,気象庁の区分に従って北日本,東日本,西日本に分け,各地域の気象官署のうち70%以上の地点で気温が標準偏差の0.5倍以上(以下)になると暑夏(冷夏)とすると,CS指数が270を下回ると北日本において暑夏,250を下回れば東日本,西日本を含めた暑夏になった.一方で一部例外はあるもののCS指数が350を上回れば北日本,東日本で冷夏,CS指数が390以上になると西日本を含めた全国的な冷夏となった.  IVa-n,IVa-s,IVb-n,IVb-sそれぞれのパターンにおける各年の7月の出現日数(複合,移行型は0.5日)をカウントするとIVa-n型が相対的に多い年(前線が出現すると35N以北に集中)とIVa-s型が相対的に多い年(前線が出現すると35N以南に集中)に分かれた.また,1989年,1992年および1993年だけはIVb-n型が相対的にもっとも多かった.1995年のCS指数は304であるが(図),この304以下であると,IVa-n型になり,それ以上であるとIVa-s型もしくはIVb-n型となった.また,7月の月合計日照時間は日本列島ではおおよそ150時間程度であるが(吉野ほか;2002),30N-35Nの気象官署で平均して7月の日照時間が150時間以下である年のIVa-s型の平均日数は9日であり,150時間を超えた年のIVa-s型の平均日数の6.4日を上回っているが,この差は統計的にも有意な差であった.また,IVa-n型の平均出現日数は5日であるが,IVa-n型が6日を超えた年は35N以北に当たる北陸,東北の気象官署における7月の日照時間が150時間を下回った.<BR> <BR> 4.まとめ<BR>  CS指数が300以下(330以上)であれば日本において気温が高く(低く),35N以北(以南)で前線が出現しやすい.また,前線と日照時間も関係があることから,CS指数は7月の日本における気温,前線,日照時間を示すものといえる.CS指数がチベット高気圧の張り出しパターンに基づいた指数であることから,チベット高気圧の張り出しメカニズムを追求することが今後の課題といえる.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680669334400
  • NII論文ID
    130007015143
  • DOI
    10.14866/ajg.2008s.0.66.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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