高解像衛星画像から探る中国乾燥地域にみられる灌漑水路跡とその時代性

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  • Irrigation cannel casts remained in the arid regions of China and their abandoned periods, based on interpretation from the high-resolution satellite images

抄録

<BR>1.はじめに<BR>  農業は,乾燥地域の定着住民にとって,昔から今日に至るまで生活に不可欠な要素である.乾燥地域では,基本的に灌漑農業が実施される.しかし,従来,乾燥地域の遺跡では,囲郭,宗教施設,墳墓など遠方からもよく目立つ対象が主に研究され,灌漑水路跡や耕地跡などについては必ずしも十分な検討がなされていない.とりわけ,中国タリム盆地や内モンゴルなどではその傾向が強い.相馬他(2006,地理予69,p197,2007,地理予71,p64)は,タリム盆地における灌漑水路跡・耕地跡(合わせて,農業遺跡)などを主な対象として,高解像度衛星画像・衛星写真の判読及び現地調査により,それら遺跡の抽出・そこに残された環境変化などについて報告した.<BR>  ところで,中国中原地域では,農業の長い歴史を有するものの農地は連続的に利用されてきたため,時代ごとの農業の実態や特徴などの解明は,専ら文献など頼らざるを得ないのが実情である.一方,中国乾燥地域の農業遺跡は,歴史的には,中原地域から伝播されて農業技術が地域の実情に合わせて修正されたものが,政治社会・自然環境などの変化により放棄され,今日に至ったものと推察される.上述の検討などを通して,乾燥地域の放棄農業遺跡についてある程度時代性を明らかにすることができれば,それらを逆に辿ることにより,かつての中原地域における農業の実態を一定程度復元できるのではないかとの仮説に至った.このような仮説を立証するためには,第一段階として,放棄時代が異なる農業遺跡の存在を明らかにすることが不可欠である.<BR>  そこで本発表では,タリム盆地および内モンゴル西部を対象地域として,放棄時代が異なる農業遺跡について報告する.<BR> 2.研究方法<BR>  高解像度衛星画像・衛星写真判読による遺跡の抽出及び現地調査による確認に加えて,今回は,主にQuickBird衛星画像(地上解像度約0.6m)の判読を通して,古灌漑水路の平面パターン・耕地規模などについても若干検討した.<BR> 3.結果と若干の考察<BR>  1).内モンゴル西部黒河下流域(デルタ地域):衛星画像判読から,大まかには大小二種類の紅柳包が抽出された.大規模紅柳包は,現地調査によれば,漢代の建設でほぼ同時代内に放棄されたとされるK688遺跡では,囲壁の一部に比高約15mの紅柳包(tamarix cone)が分布し,漢代の建設で3-4世紀に放棄されたとされるK710遺跡付近では,南東端囲壁から約50m地点の灌漑水路跡が比高6-7mの紅柳包に覆われていた.<BR>  小規模紅柳包は比高3-4mで,西夏・元代の陶器片などが多く散在する地域に分布し,緑城遺跡(元代まで断続的に使用)付近では盛土型灌漑水路跡上などにも多く発達していた.QuickBird衛星画像では,一筆レベルの耕地区画が明瞭に抽出される.緑城遺跡付近では,それらはやや歪んだ(縦横が不揃いな)長方形を単位とした変形方形パターン,一辺3m前後の多角形が集合した蜂の巣状パターンなど,場所ごとに特徴的な平面形状を示していた.なお,1950年代の新中国躍進時代に新たに掘削され程なく放棄された盛土型灌漑水路跡では,紅柳包は未発達であった.<BR>  2).タリム盆地南東部の米蘭遺跡:開析小扇状地の扇央から扇端にかけて,約8本の放射状第二次灌漑水路跡,これから分岐してほぼ平行に延びる第三次灌漑水路跡などが残存していた.いずれも盛土型水路である.烽火台などが点在する扇端付近では,衛星画像から,規模が明瞭に異なる二種類の紅柳包群が抽出された.相対的に規模が小さい紅柳包群は,上流側へ遡ると,上記の第三次灌漑水路跡に連続していた.このことは,規模が大きな紅柳包は形成開始が相対的に古く,早い時期に放棄されたことを示唆する.<BR>  3).タリム盆地などにおける他の事例も含めると,盛土型灌漑水路跡付近に発達する紅柳包の規模は,水路放棄後経過した時間の大まかには指標として有効であることを示している.<BR> <BR> 本研究は,平成19年度科学研究費補助金基盤研究(A)(2)(海外)「高解像度衛星データによる古灌漑水路・耕地跡の復元とその系譜の類型化」(代表:相馬秀廣)による研究成果の一部である.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680669368320
  • NII論文ID
    130007015189
  • DOI
    10.14866/ajg.2008s.0.76.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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