バンクーバーにおける日本人語学留学の特徴

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  • Characteristics of Japanese Educational Tourism in Vancouver

抄録

_I_ はじめに<BR>  ツーリズムの新たな展開として,近年オルタナティブ・ツーリズムの議論が活発になされている.特に,エコツーリズムについては,近年の環境保護意識の高揚を受け,自然環境が卓越する地域や農村における自然資源を中心に着実に研究が蓄積されてきている.<BR>  他方,都市におけるオルタナティブ・ツーリズムとして,近年,educational tourismが注目されている.educational tourismの解釈,旅行中の総合的な学習から目的の明確な学習の旅行まで広範な幅を有している.なかでも,国際的なeducational tourismの実践において,語学(language learning)は,最も主要な目的として位置付けられている.そのため,語学を目的とした国外での長期間の滞在という旅行形態は,「語学留学」として現在educational tourismの中枢を占めている.<BR>  本研究は,バンクーバーにおける日本人の語学留学について,滞在期間を通じた語学留学生の状況の変化についての分析から,ツーリズムとしての語学留学の地理学的特徴を明らかにすることを目的とする.<BR><BR> _II_ 日本人のカナダ留学の増大<BR>  個人が就学許可証の有無にかかわらず留学エージェントを通して手配したインフォーマルな留学形態が,カナダにおいて比較的容易になった要因の1つとして,制度的な背景がある.まず,日本人が就学する際の査証免除条件が,英語圏の国々のなかでも比較的緩慢であることがあげられる.カナダの場合,英語圏の国々のなかで最長6ヶ月の滞在および就学が許可されている.また,ワーキング・ホリデー査証の発行数も段階的に増員されており,オーストラリアに次いで多くの日本人ワーキング・ホリデー・メーカーを受け入れている.<BR>  「留学」を目的とする日本人のカナダへの出国についても,その構成比が1980年代半ばから急増し,1990年代より徐々に増大が続いた.さらに,それに伴う滞在期間の長期化も確認された.<BR>  カナダにおける日本人の長期滞在者は,バンクーバーおよびトロントに集中している.特に,インフォーマルな留学形態による長期滞在者の増大が,バンクーバーにおいて顕著であることが推察できる.<BR>  2007年,バンクーバーにおいて英語の語学学校はおよそ100校あり,そのうち日本語対応可能な学校が約60校であり,それらの多くがバンクーバーの都心部に集中している.日本人の留学生の割合が高い学校が多く,日本人は非常に重要な地位を占めている.<BR><BR> _III_ バンクーバーにおける日本人語学留学生の属性<BR>  インフォーマルな留学形態を採った留学生の特徴について,インタビュー調査を行った結果,以下のことが明らかになった.まず,性別および年齢渡航前の経緯から,留学生のライフパスにおける語学留学の位置付けに着目すると,20代の女性が一度就業し退職後に渡航している場合が多いという特徴が確認された.<BR>  渡航の目的としては,英語の学習および「海外における生活の体験」が目立った.バンクーバーの選択理由に着目すると,バンクーバーに立地する特定の語学学校を目的としておらず,訛り,気候,治安,日本からの「距離」に対する肯定的なイメージ,または友人または業者からの紹介といったことから選択される傾向がある.<BR>  他方,渡航の際の業者の活用状況についてみると,ほとんどの留学生が語学学校および滞在先の仲介に利用しており,留学エージェントへの依存度が高いことが示された.<BR><BR> _IV_ 語学留学生の滞在中の状況変化の特徴<BR>  バンクーバーにおける日本人語学留学生の滞在形態,就学,就業,余暇活動の4つに着目し分析を行った結果,以下のように滞在期間を通じて状況を段階的に変化させていくという特徴が明らかになった.<BR>  滞在形態については,多くの場合,留学エージェントを利用して手配した近郊のホームステイ先におよそ3ヶ月間滞在している.以降は,留学生は自ら手配して都心部におけるルームシェアへと滞在形態を変更する傾向がある.<BR>  就学については,滞在中ほとんどの留学生が渡航当初からおよそ3ヶ月間語学学校へ通学している.以後の状況は,留学生によって様々であり,留学エージェントを利用して再度別の語学学校に通学するというパターン,および就労許可証を利用して就労を行うパターンなどが確認された.<BR>  余暇活動については,留学生は州内およびシアトルへ日帰り旅行を行い,また,カナディアン・ロッキー,カナダ東部,合衆国西海岸への宿泊を伴う旅行がなされる場合も多いことが示された.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680669401728
  • NII論文ID
    130007015246
  • DOI
    10.14866/ajg.2008f.0.55.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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