チベットの湖沼群に関する水文地理学的研究

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  • Hydrogeographical Study on Lakes in the Tibetan Plateau

抄録

I はじめに<BR>  本報告は、西蔵高原の南東部に位置し、標高5070mにあるプマユムツォ湖を対象に、東海大学とチベット大学クーラカンリ友好学術登山遠征の一環として2001年から行なわれているチベット・プマユムツォ湖学術調査の一調査報告である。本調査は、中国西蔵自治区の湖沼を主とする水文環境の特性を比較陸水学および水文地理学的視点から明確にし、プマユムツォ湖の自然誌的位置づけを明らかにするとともに、水位・水質・水温などの連続観測から、夏季のプマユムツォ湖の陸水物理学的性質を明らかにすることを目的として行なわれた。本研究では、移動班とプマユムツォ湖固定班に分かれ、同時に調査を行なった。<BR> II 対象地域概要<BR>  本研究における調査対象地域の一角を占めるプマユムツォ湖(普莫雍錯)は、北緯90度24分、東経28度34分の、西蔵自治区の地級都市ラサより南西約150kmほどに位置する淡水湖である。湖面積328.4m2、湖面高度は5009mである。西岸には、南方のブータンとヒマラヤ主脈から流下し上流域に氷河を有するもっとも主要な流入河川の流入口が存在し、デルタ状の広い低地が形成されている。対岸の湖東岸には、現在、湖で唯一の流出口が存在し、ここから東に湖水が排出されている。この流出河川は東流し徐々に流路を北に向け、プマユムツォ湖の北方に位置するヤムドゥク湖(羊卓雍錯)に流入している。プマユムツォ湖北岸には分水界が近接して存在し、分水界の北側はヤムドゥク湖に南から流入する河川の流域となっている。 図1 チベットの湖沼群と水系、道路位置図<BR> III 研究方法<BR>  本研究ではアメリカ合衆国が撮影した様々なスケールの世界航空地形図と、中国で発行された中国西蔵自治区の水文に関する文献などを画像処理し、標高データの整理など既存の手法に従ってデータベース化し、主題図を作成した。移動観測班はそれらの情報を基に、走行可能な移動ルートを決定した。調査は、その中でできるだけ広範囲に移動し、様々な陸水の水質を測定するとともに、選定した代表的な湖沼については、水質・水温の鉛直分布などの基本的な調査を行なった。<BR>  プマユムツォ湖固定観測班は、GPSを用いた漂流板追跡によってプマユムツォ湖の湖流を計測し、気温・湿度・風向・風速・日射などを測定するとともに、湖水温の連続観測を行った。また、多項目水質計を用いて、水温・電気伝導度・pH・DOの鉛直分布を測定し、水温分布を確認後、表層・水温躍層上層・水温躍層付近・水温躍層下層・底層の5層程度の採水を行い分析した。<BR> IV 結果・考察<BR>  プマユムツォ湖の存在するヤルツァンポ川流域(蔵南谷地)と、閉塞湖が多い西蔵自治区中央部(青蔵高原)など、中国西蔵自治区の湖沼群は、気候区域や大河川水系界など様々な区分があるところに位置し、それらを調査することによって、陸水環境の比較を行なうことが出来た。<BR> V おわりに<BR>  中国西蔵自治区の水文環境の特性を比較陸水学および水文地理学的視点から明確にするためには、これら湖沼郡が、性質の違う大河川の源流部を多く有しているという特徴を考慮し、広範囲に調査する必要があると感じた。今後の調査では対象地域をさらに広げ、多くの水文区分を跨ぐ調査にしたい。<BR> 参考文献 チベット・プマユムツォ湖学術調査隊(2003):2001チベット・プマユムツォ湖学術調査研究報告書,東海大学ヒマラヤ遠征委員会,197p.中国科学院(1984):『西蔵河流与湖泊』,科学出版社,238p.中国科学院(1986):『西蔵冰川』,科学出版社,328p.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680669580672
  • NII論文ID
    130007015428
  • DOI
    10.14866/ajg.2006f.0.83.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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