最 近 の 豪 雨 災 害 多 発 の 背 景

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  • Background of an increase in heavy rain disasters in recent years
  • From climatological, meteorological viewpoints
  • 気候・気象学的な視点から

抄録

1.はじめに近年,集中豪雨の頻度が高まってきていると指摘される。集中豪雨の地域性に何か変化はないだろうか。2004年はまさに大水害の年であったが,その背景には何があるのだろうか。梅雨季から盛夏季にかけての梅雨前線・秋雨前線とそれに伴う暖湿気流の振る舞い,および史上最多の10個上陸の記録をつくった台風を中心に据えて,近年の類似年を検討しつつ特徴を述べる。2.集中豪雨の地域性をもたらした要因近年とくに日本海側地域における集中豪雨が増加しているが,それはなぜだろうか。端的にいって,日本海側に前線が停滞しやすくなっている(山川, 2002)。従来,日本海に停滞前線が現われるのは,梅雨末期,つまり梅雨明けを控えた1週間ほどであった。しかし,ここ10数年においては,梅雨季の後半に入って間もなく,日本海から北日本を通る停滞前線が出現しやすくなっている。その傾向は8月にも認められる。その成因として,1)北太平洋高気圧の梅雨季における早い北偏と,2)同高気圧の盛夏季における南への後退があげられる。2)の原因としては,3)オホーツク海高気圧の出現頻度が高い年の発現,4)寒冷渦の出現頻度増加(8月)が挙げられる。3)関連で5年周期変動も指摘されている(Kanno, 2004)。さらに3)の原因としては,地球温暖化のため東シベリアの気温の上昇が顕著だが,周辺海洋ではそれほど変化がなく,そのため,極東域で南東季節風が強化,高気圧性の循環が卓越し,オホーツク海高気圧の発達を促進していることが推察される。暖湿気流(湿舌)にも特色がみられる。2004年7月13日の新潟・福島豪雨,同月18日の福井豪雨の両事例とも,豪雨地域に進入する線状の積乱雲(Cb-line)が非常に鮮明だった。そのCb-lineに沿って顕著な暖湿気団(相当温位:約345K)が流入した。その水蒸気源は,一部はインド洋(ベンガル湾)から入り,また一部は南シナ海,東シナ海,および黒潮大蛇行へ移行中の西太平洋からも合流した。加えて,日本海でも海面水温(SST)が高く,水蒸気を供給した。下層ジェット(WSW20m/s強)が吹くとともに,それに直角方向の対流現象も生じ,日本海からの蒸発を促したと推測される。3.猛烈台風の襲来の要因2004年における台風の総発生数は29個と,平年より2つ多いだけだが,発達したものが多かった。猛烈に発達した台風の頻発は,日本南方,西太平洋における200hPa(圏界面付近)の明瞭な気温低下,および,高いSSTの相互作用の結果とみなすことができる。さらに,熱帯太平洋中部の高SSTが熱帯収束帯(ITCZ)を活発化させたこと,北太平洋高気圧の張りの西縁部がまさに日本列島付近にあり,その縁辺流が南方の台風を日本列島へ向かわせた。太陽活動と有意な正相関の認められる海域が日本付近に多いが,高SSTは2000-01年極大期の余波とみなすことができよう。放射平衡の結果として現われる圏界面付近の低温化は,今後もトレンドとして進行する可能性が高く,猛烈台風形成要因として見逃せない。台風0423号は特筆に値する。超大型で強風圏は半径650kmに達した後,日本列島を襲った。台風が土佐清水に上陸後,中京地区を東北東進中,中心から100-200km北側の北陸方面(いわゆる「可航半円」内)で激しい暴風雨被害が発生した。その原因として,1)台風上空の12.1-12.5km(200hPa)に強風圏にほぼ対応する暖域があり,Cbスパイラルバンドの雲頂高度もほぼ同高度に及んでいたとみられ,奥羽山脈を東から西へ横断してもCbはあまり衰えなかったこと,2)大陸からー61℃(200hPa;上記暖域核との気温差18℃)の寒気団の南下もあり,気圧および気温の勾配が急激な状態となったことが挙げられる。豊岡・舞鶴などにおける洪水のため,台風に伴う人的被害としては台風8210号(8月2日,梅雨前線が残るなか渥美半島に上陸;死者行方不明:95名)に匹敵する惨事となった。2004年との共通点としては,1)1982年も「長崎豪雨」などの集中豪雨が相次いだ後での追い討ち豪雨による土砂災害だった。2)ともに成層圏QBOは典型的な東風フェイズで,熱帯対流圏の鉛直シアは小さく,東へ張り出すチベット高気圧の東縁部に沿って台風が北上しやすかった。3)ともに黒潮大蛇行年。4)ともに太陽活動はピークの3-4年後の衰退期にあたり,ユーラシア大陸上の寒冷渦が強化された(同期特有の現象)。相違点としては,1982年はエルニーニョ年であるのに対し,2004年は上記のようなSST分布であったが,ともに日本への湿舌は極めて強いという結果となった。4.まとめ2004年は複合的な要因が重なり,前線活動と台風による豪雨災害が頻発した。それには,高いSSTの影響が大きいが,QBO東風フェイズ,太陽活動(SSTおよび寒冷渦へ作用)も影響したほか,地球温暖化の直接・間接的に関与していると考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680669587456
  • NII論文ID
    130007015441
  • DOI
    10.14866/ajg.2005s.0.16.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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