技術情報移転における鋼材商・工具商の機能

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書誌事項

タイトル別名
  • The Function of the Metal-Machinery Suppliers in Technological Information Transaction
  • A Case Study of the Technological Conferences in the Suwa District, Nagano Pref.
  • 長野県諏訪地域の工業技術研究グループの分析を通じて

説明

I. 問題の所在 経済のグローバル化など,日本の製造業を取り巻く環境は近年大きく変化した.その過程で,日本の製造業は大量生産型の企業システムから脱却し,より技術集約・知識集約型の企業システムへと変貌を遂げてきた.この変化は,大都市圏工業集積に従属してきた地方圏の工業集積地域でも同様であり,地方圏の中小製造業でも知識集約化・技術集約化が進行してきた.この変化を可能としたのは,中小製造業独自の技術導入・研究である.そのような実践を通じて,自社技術の高度化,新規分野の開拓,そして自社製品の開発など,地方圏の中小製造業は新たな競争力を創造してきた.一方で,中小製造業単独の技術開発基盤の整備には,資本・技術情報探索などの点で制約が伴うが,商社などサプライヤーが,これらの機能を支援・補完する役を担ってきた.また,斯学でも研究が蓄積されてきたが,各企業の技術的発展を可能としたものに,工業技術研究グループがある.これらの研究グループは,製造業者や商社など多様な主体が参加するため,参加者間で技術情報の交換が行われる.これら商社や工業技術研究グループは,中小製造業の技術集約・知識集約化を論ずる上で,看過できない存在となりつつある.本報告は,長野県諏訪地域に立地する工業技術研究グループの分析を通じて,中小製造業への技術情報移転における鋼材商・工具商の機能を明らかにすることを目的とする.II. 諏訪地域の鋼材商・工具商の集積 諏訪地域は工業集積地域として著名であるが,それらの工業集積に対応して,鋼材商・工具商の集中もみられる(図1).長野県には千曲川沿岸と松本・諏訪の2大工業集積がみられるが,それらの集積と対応して,鋼材商・工具商は分布している.諏訪地域は南信地方の集積の核心となっており,首位都市である諏訪市・岡谷市に,商社の立地がみられる.また,副次的中心地である茅野市や下諏訪町にも一定程度の立地がみられる.諏訪地域6市町村には,113の鋼材商・工具商が立地する.その多くが,岡谷市の長地地区,諏訪市の四賀・中州地区に集中して立地している.在地資本の鋼材商・工具商のうち,従業者規模が比較的大きいものは,創業年次が1940年代から50年代と古い.一方,中小規模の商社は,鋼材商では1970年代,工具商では1960年代および80年代に創業した企業が多い.これら在地の鋼材商・工具商の増加に対応して,県外資本の商社の進出も1980年代を中心に進んだ.県外資本の商社の本社所在地は,東京都を中心とする関東地方が中心となっている.III. 工業技術研究グループの活動 諏訪地域には,市町村や個人などが主催する工業技術研究グループが存在する.本報告では,岡谷市の「コバール研究会」および諏訪市の「諏訪市難削材加工研究会」を事例として採りあげる.両研究グループは,需要が増加しつつあるチタン合金,マグネシウム合金やコバールなどの難削素材の加工技術の確立・向上を目的として設立された.研究グループは,製造業者を中心に構成されているが,技術アドバイザーやオブザーバーとして,鋼材商・工具商が参加している.研究グループの活動は,外部講師の招聘による講義,製品図面等を用いた加工・試削,検討会などによって構成される.加工・試削によって得られた知見は,検討会で技術情報として交換される.これらの各過程で,商社は情報探索機能を代替し,技術情報の提供を行う.このようにして得られた技術情報は,各企業において参加者を中心に再検討・再試削されることで共有され,その企業の技術として蓄積される.これらの点で,商社および工業技術研究グループは,中小製造業の技術集約・知識集約化の基盤となっている.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680669617664
  • NII論文ID
    130007015497
  • DOI
    10.14866/ajg.2005s.0.168.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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