北アルプスにおける登山者の流動

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タイトル別名
  • The Flow of Mountain Climbers in the Northern Japanese Alps

抄録

1. 研究の目的1990年代に始まった中高年の登山ブームは,日本各地の山岳地域の状況を大きく変化させた.以前の登山者の宿泊形態は,小屋利用とテントによる幕営がともに多く見られたが,近年は中高年登山者の増加と若年層の登山離れにより小屋利用が増加し,幕営は減少する傾向にある.これに伴い各地の山域では山小屋の整備が進められ,食事の提供やトイレの整備など登山者のニーズにあわせた経営を行っている.また百名山ブームにより,登山者がめざす山や歩行する登山道も変化しており,登山者の増加している登山道の整備や登山口付近の道路や駐車場等の整備が国や地方公共団体によって行われている.こうした登山形態などの変化は,山岳地域の自然環境に影響を与えてきている.たとえば,登山者の増加や集中は登山道のガリー侵食を引き起こしており,この問題については地生態学的な研究が行われるようになってきた.また,高山植物の盗掘やトイレの汚物処理の問題なども発生している.しかしながら,登山者の動向を詳しく分析した研究は多くはない.本研究では,国内でも有数の登山者を集める北アルプスにおいて,登山計画書のデータから登山者の歩行ルートや属性を明らかにし,登山道の選択とその要因を考察する. 2. 研究対象地域研究対象地域の北アルプスは,新潟・富山・長野・岐阜の4県にまたがる山域であり,中部山岳国立公園に指定されている.このうち,白馬岳・五竜岳・鹿島槍ヶ岳・剱岳・立山・薬師岳・黒部五郎岳・黒岳・鷲羽岳・槍ヶ岳・穂高岳・常念岳・笠ヶ岳・焼岳・乗鞍岳の15座が,深田久弥による「日本百名山」であり,国内でも人気の山域で,毎年多くの登山者を集めている.これらの山域には,更新世に形成されたカール・モレーンなどの氷河地形,凍結融解作用による周氷河地形,雪渓やお花畑などがあり,登山者は変化に富んだ自然景観を楽しみながら歩くことができる.登山者向けの山小屋も各地に設置され,ほとんどの小屋が春から秋にかけて営業している.登山道も整備され,一般の登山者も安全に歩くことができるようになっている.山域の周辺には,JR大糸線や松本電気鉄道などの鉄道や,それらの駅から登山口を結ぶバス路線が整備されている.以前は,登山口まで登山者の多くが鉄道やバスなどが公共機関を利用していたが,近年は自家用車で入る登山者が増加しているため,道路や駐車場の整備が進んでいる登山口も見られる.3. 結果と今後の課題本発表ではまず,1999年夏季に上高地(安曇村),中房温泉(穂高町),猿倉(白馬村),栂池高原(小谷村)など長野県側の登山口から入山した登山者を対象に,入山時に登山口の補導所で提出した登山計画書をもとに,歩行ルートや宿泊形態,登山者の年令,性別,居住地などについて報告する.調査の結果,1ヶ月間に約3万5千人の登山者が入山しており,関東地方から訪れる40歳以上の中高年が多いことがわかった.現在,登山口ごとに登山者がめざした山や登山口から山頂まで利用した登山道のデータから,登山者の歩行ルートの傾向を分析している.今後は,登山口の交通の利便性,各登山道の傾斜や登山口から山頂(稜線)までの距離・標高差・所要時間,それぞれの登山道から観察できる特徴的な自然景観についても検討を行い,登山者の歩行ルートの傾向と登山道の景観的な特徴との関係を明らかにしたい.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680669663744
  • NII論文ID
    130007015593
  • DOI
    10.14866/ajg.2003f.0.105.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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