クラブ制リンゴ「ピンクレディー」の特性

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タイトル別名
  • Characteristics of Pink Lady based on Club Systems
  • 国際ピンクレディー連盟・通常総会2010をもとに

抄録

1.研究目的<br><br> 本研究の目的は,登録生産者のみが栽培・販売可能なクラブ制に注目し,その代表例ともいえるピンクレディー(PL)の国際組織(国際ピンクレディー連盟/IPLA))の活動をもとに,その特性とクラブ制の世界的な広がりについて考察することである.<br><br>2.クラブ制とPLの拡大<br><br> クラブ制とは生産者と流通業者,苗木生産者が連携し,グループ内で知的財産(育成者権と商標権)を利用した契約を結び,生産・流通をコントロールし,それによって得られた利益の一部をマーケティングやブランド防衛に用いることで,高い付加価値の維持を図るシステムである.例えばPLでは,品種が開発されたオーストラリア以外の国での生産・販売のライセンシーは,当該国の種苗会社や苗木業者協会がもち,商標権はその国のPL協会が有している.現在,PLの生産は世界各地に広がっており,世界のリンゴ生産量(2006年)の約1.5%を占める.オーストラリアの品種別生産量(2008年)では,グラニースミスを抑えて最大の生産量(60,487t)となっている.また,IPLAの通常総会資料によれば,イギリス国内でのPLの栽培は行われていないものの,南アメリカなどから相当量を輸入しており,イギリス市場での流通量の8.6%(2010年)を占めている.<br><br>3.国を越えた関係者の交流とクラブ制の特徴<br><br> IPLAでは,毎年,各国の現状やプロモーション方法等を議論する総会を開催している(図1).2010年は日本(長野県)で開かれ,各国協会関係者40名が出席した(図2).ここでは数日間,会員が行動を共にし,ミーティングのほか,園地視察や開催国の文化に触れる機会等が用意されており,親交・親睦を深めている.会議の中では,権利侵害への対応についても話し合われ,その現状や対抗措置等についても報告されていた.<br> また,『平成20年度 農林水産貿易円滑化推進事業輸出戦略調査報告書(ピンクレディー)』によると,ヨーロッパでは,2000年より苗木の販売と植え付けを制限し,生産量の抑制を図っている.1990年代末の生産のピーク時には年600haもの新植が行われたが,現在は年200haに減少しており,そのうちの多くは古い樹の改植である.これは,生産過剰に陥ることなく,市場価格を維持するための方策である.日本ではPLの栽培の許可を得てから,まだ日が浅く,会員数や栽培面積の増加,ブランドイメージの確立,販売先の確保等が課題とされているのに対し,PLの認知度や普及度の高いヨーロッパならではの対応ともいえる.<br> これらの事実から,クラブ制においては,限られた関係者で利益を享受するための仕組み作りとしての数量・価格のコントロールや関係者の結束の強化,権利侵害への対応といった方法が戦略上,重要視されているのである.この点は,日本の関係者も今後,大いに参考にすべき点であるといえる.現在,クラブ制の先駆的存在であるPLの仕組みを模したリンゴブランドは,ヨーロッパや北アメリカ,オセアニアを中心に20を超えて存在しており,クラブ制の影響力の強さを示しているといえる.<br> 以上のように,クラブ制の世界的な普及は,農産物品種および商標の開発・管理はもちろんのこと,生産・販売・流通を統括する知的財産権の活用システムが,関係者の利益を担保するための有効なツールとして強く認識されていることと大きく関係している.また,そうした意味からもIPLA総会は利害関係の調整や情報交換を図る重要な場となっている.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680670038912
  • NII論文ID
    130007016225
  • DOI
    10.14866/ajg.2011f.0.100012.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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